456 歓迎の落差
急いでロンギングの精鋭達を起こし回り、馬車へグロッキーなワイズを放り込んで出発する。
二日酔いで潰れてしまっていた精鋭が複数人いたので、ムリをせず宿で休んでもらう事にした。戦力が減ってしまうが仕方あるまい。
誰かの恨めしい声が聞こえてきそうだけど、メイン戦力を失うわけにはいかないので運んででも連れていく。
出発がいきなりだったし、事前準備をしていなかったからかなり時間をかけてしまった。先に向かったジャーレフ達に追いつければいいんだけど。
そんなボクの願いを嘲笑うかのように、ソル・トゥーレを出た瞬間に次々と鳥系の魔物に襲われる事になった。
まるで標的を狙い澄ましたかのように、執拗な数の空襲を受ける。
エリスを含め弓兵部隊にフルで動いてもらいながら、車体を揺らす強引な行軍で突き進む。
ワイズの恨めしい声が聞こえているような気がするけど、急がなければジャーレフ達が危ない。
もしもボクたちと同じ数の魔物に襲われていたとしたら、危険なんてものじゃない。
汚れを知らないスカッとした男だ。是非とも平和になったソル・トゥーレで、イッコクで、そのリーダーシップを遺憾なく発揮してもらいたい。
きっとボクと違っていい指導者になれるから。ボクは、後ろめたく何度も闇に染まりかけてきた。負の感情があってこそ強くなれた事は否めないけれど、上に立つには黒すぎる。
だから見たいんだ。眩しい生き方をした指導者がどうやって民を導いてゆくのかを。
そして出来る事なら、共に手を取り合って民を支えてゆきたい。
そのためにはジャーレフ、君を死なせるわけにはいかないんだ。
急降下してくる鳥の首を跳ねながら、大空への塔を目指して突き進む。怒濤の勢いで、丁寧さなんてかなぐり捨てて。ガタゴトと車体を跳ねさせながら。
急げ、急げ、急げっ。
ジャーレフの逞しい背中を必死に追いかける。大空への塔が近く大きく見えるようになるに比例して、焦りが強くなってゆく。
そして。
「ん、追いついてきたか勇者ジャスよ。だがソレでこそ張り合い甲斐があるというものだ」
万全の状態のジャーレフに追いついたのは、大空への塔に入る直前の事だった。
ボクたちの追い上げに気づいたジャーレフは、腕を組んだ余裕の態度でウンウンと首を縦に振る。
「ざっ……けんなよテメェぇぇぇぇ」
ワイズのゾンビめいた弱々しい声が馬車から捻り出てくるが、ジャーレフの耳には届かなかったようだ。姿を見せないあたりで惨状を察せられる。
「ジャーレフに先を行かれてから急いでソル・トゥーレを発ったからね。どうにか追いつけたよ」
見たところ無事そうでなによりだ。間に合ってよかった。けど、少し平気すぎないだろうか。
「しかしジャスよ。悪しき鳥に随分と襲われたようではないか。オイラ達のように空に祈りを捧げていないから余計な火種を生むのだ」
「心しておくけど、その言い方だとジャーレフ達はそんなに襲われなかったみたいだね」
消耗の少なさを考えるに、魔物との遭遇そのものが少なかったのだろう。
しかしジャーレフは頭にポンとクエッションマークを浮かべたような首の傾げ方をした。
「何を言っているのだ。鳥神様のご加護があるオイラ達が、悪しき鳥に襲われるはずがなかろう」
堂々と言い張ったジャーレフにボクたちは、一瞬無反応を返してしまった。
えっとつまり、ノーエンカウントで大空への塔に辿り着いたって事なのかな。
エアの悪意というか、作為的なものを感じさせられたよ。




