453 薄れ
魔王エアの登場ってハプニングがあって祭りの会場は一時騒然としたけれども、被害がなかった事も相まって再び賑やかに再会した。
打楽器の音と原始的な歌、そして力強い喧噪を感じながら、黄色い鳥女が消えていった夜空を見上げる。
「アタシ、とっさに矢を射れなかった」
星々の輝きが妙に綺麗で仕方がない。余裕を持って景色を眺められている。おとおさんの仇を見つけて、逃がしてしまったていうのに。
昼間ちょっかいかけてきたシャインが祭りの広間でナンパをしている事はわかってた。見ていて虫唾が走る反面、関わりたくない気持ちでいっぱいだったから見逃してたけれども。
そこへどこからか鳥女が飛び乗って、衆人環視の中で堂々と本来の姿を曝け出してシャインと共に飛んでいった。
憎くないかと言えばウソになるけど、シャインを視界から退けてくれたと考えると感謝すら言いたくなるくらいだから不思議。
「エアの事、気になる?」
声に釣られて隣を見ると、アクアも夜空を見上げていた。
「アクア。気になるに決まってるでしょ、おとおさんの仇なんだから」
今まで散々思っていた言葉をむりやり吐き出す。感情がこもっていない事に気づかないフリをして。
「その意気だよエリス。殺意だって立派な戦意なんだから」
両腕で小さくガッツポーズをしながら微笑みを向けるアクアは、なんの憂いもなくかわいい応援をしてくれる。アタシが活躍する事を信じて疑ってないみたいに。
「アクアこそいいの。アタシらが勝っちゃったら、エアやシャインだって、その……」
視線を逸らしながら言葉を窄めてしまう。直接言っちゃってもいいのかな。
「死んじゃうって事?」
「ちょっと。こっちがデリカシーを持って言いづらくしてるんだから、少しはためらいなさいよ!」
あまりに平常運転過ぎて、ついつい怒鳴っちゃったわ。
けれどアクアは、青い瞳をまっすぐ向けてきた。
「前も言ったかも知れないけど、私たちは最初から死ぬ覚悟で勇者に戦いを挑んでるからね。戦う前から嘆いてなんていられないよ」
だから、どうしてそうもスパッとした命の考え方なのよもぉ。
「それと余談なんだけどね、シャインの事、殺せるなら殺しちゃってよ」
「は?」
いやまぁ人格考えたらアクアの考えもわからなくないけども、仮にも血の繋がった姉弟をそんな言い方しちゃうわけ。
アタシが驚くと、アクアが言いにくそうに苦笑をした。
「シャインって強いか弱いかハッキリしないところあるけどね、死ぬビジョンだけはどうしても浮かばないの」
「どういう事?」
「これまで何度死ぬような目に遭ってきても生き抜いてきたからね。私だって戦いになったら負けないとは思うけど、同時に完全勝利だけは絶対に出来ない自信があるんだ。不死身としか言えないほどの生命力をしてるから」
底知れぬ恐ろしさを感じさせられる。死なない変態ってワードが頭にこびりついて嫌な気分になったわ。




