449 飛び火する情熱
恐縮なほど沸き立つ祭りの場に苦笑いを浮かべながら酒を呷る。
改めて感じさせられたよ。ソル・トゥーレの魂の力強さを。腹の奥底から声を上げ、胸がはち切れるほどに踊り、全力で未来を信じる。
焚かれている炎のような激しい生き様が、どうにもチリついて仕方がない。懐かしいものが込み上がってくるこの感覚は、なんだっただろうか。
「おい、流れ者の勇者」
いつの間にか俯いて考え込んでしまっていた思考を、遠慮のない問いかけがぶった切る。顔を上げると、ジャーレフが側まで来て凄んでいた。
「先に言っておく。ソル・トゥーレを救うのは空の勇者に選ばれたこのオイラだ。たまたま今日という日に流れ着いた勇者に出番はない」
いきなり対抗意識をむき出しにしてくれるな。けどどこか心地いい。貶めるとかじゃない。まっすぐな自信を突きつけてられるのは意外にも受け入れられるものなんだな。
「心強いね。ボクの出番なんて本当にないのかもしれないね」
「なっ、なんだその軟弱な態度は。それでもお前は魔王を倒した勇者なのか」
ボクの弱気な態度に驚愕すると、慌てふためいてブレブレに震える腕でボクを指差してきた。そのクセは行儀が悪いからやめた方がいいと思うな。
「空の勇者に選ばれるのは大変栄誉ある事だ。だからオイラは強い誇りを持っている。お前には胸の内に高ぶる情熱はないのか」
動機は褒められたものじゃないかもしれないけど、魔王アスモデウス討伐に燃えていた頃は危ういくらいの感情をむき出しに生きていた。
魔王を討伐するまでとにかく必死で、命を燃やす勢いで強くなったっけ。
けど激しく燃えすぎたせいかな、魔王を倒した後はどこかやる気が置き去りになって、心が一気に老けてしまっていた気がする。
やる気がなかったわけじゃないけど、もう休んでもいいのかって気持ちになってしまっていたんだ。積極的になれなかった。
「あったよ。けど、ちょっと平和な間に情熱ってヤツを忘れちゃってたんだよね。だから、選択を誤ってしまった」
自然と視線を逸らしてしまうと、太くて焼けて両手で顔をつかまれてしまう。強制的に視線を合わせられる。手まで熱いな。
「お前、つまらない事で塞ぎ込んでいるのではないか」
黒い瞳に灯る情熱が、ボクの瞳を焼こうと睨み付けてくる。
「選択を誤ったからなんだというのだ。気づけたならやり直せる。勇者と称えられるほどだ。力だって持っているのだろう」
あぁ、青い。けどとても熱い。間違える事も、やり直す事も恐れていない。そんなまっすぐな感情をぶつけられては、無防備な情熱がボクに飛び火してしまうじゃないか
「そして勇者の誇りをかけてオイラと勝負しろ。どちらがソル・トゥーレに平和を取り戻せるかを!」
「ムチャクチャを言ってくれる」
けど、まっすぐだ。熱すぎてその期待に応えたくなってきた。
ボクは無意識に、笑みに力を込めていた。




