440 託す想い
お昼ご飯を食べてからウチは、父ちゃんと一緒にヴェルダネスを散歩する。
「おや、コーイチ様は今日エア様と一緒なのか」
ウチ達に気づいて手を振る村人に、笑顔で両腕を振って返事を返す。
最初見たときは希望も気力もない、ただ死を待つだけの村だったんだよね。ソレが今は活気に溢れていて、町と言っても遜色ないくらい建物が立派な村になった。
父ちゃんのマイルームでググった建物を参考にしてるから、父ちゃんの暮らしてた住宅地に似てるんだ。
「なぁエア。一緒に散歩するのはいいんだが、どうして俺は肩車してるんだ?」
ウチの両足に挟まれたボサボサな黒髪頭から、疑問が飛び出してきた。
「村を高い視線で見渡したい気分になったからね。重かったら降りるけど」
頭を抱えて逆さになりながら父ちゃんを覗き込むと、満更でもない疲れた笑顔を返してくれた。
「エアは軽いから大丈夫だ。一日中でも肩車していられるぜ」
汗の滲む強がった表情で言われても、やせ我慢してる事がバレバレなんだよね。けどもうちょっと親子の風を感じていたいから、がんばりに甘えちゃお。
たぶんもう、ウチにしか出来ない甘え方だから。みんな成長早くて、おんぶなんてねだったら次に小さいヴァリーでさえ父ちゃん潰れかねない。
だからウチは、小鳥のように小さくてよかった。父ちゃんに父親をさせてあげられるから。
「父ちゃん。次はあっちの方に行きたいな」
腕を伸ばして指差すと、父ちゃんが向きを変えて向かってくれる。こういうのって操縦してるみたいで楽しくなっちゃう。
「あっちってなんかあったっけか?」
道の真ん中を堂々と歩けるあたりに、父ちゃんの人徳が知れてウチも嬉しい。示した先は村の外へ向かう道だけれども、直感があっちに行けって囁いてる。
「何やってんのよコーイチ。いっちょ前に父親面をして」
道中ススキに声をかけられて父ちゃんが振り返る。呆れたようなジト目をしながらウチ達を見上げてた。
ススキも最初に出会った頃に比べてきれいになったな。サイドテールにしてるボサボサの髪もしっとりと手入れされてるし、ガリガリだった小さな身体も、女性らしいメリハリのあるボディに成長してる。ちょっと羨ましいのは内緒。
「散歩してるだけだぜ、ススキ」
「やっほーススキ。今日も綺麗だね」
父ちゃんが話しかけた時は堂々としてたのに、ウチが前のめりになって顔を近づけると一歩退いた。怖がられちゃってるな。
「あ、ありがとう」
視線を下に逸らしながら返事だけを返してきた。
ホントに大きくなったな。最初は父ちゃんを殺すほど憎しみを持っていたのに、今では父ちゃんを癒やせるほど大切な存在になってるんだもん。
「ウチね、もうすぐ勇者と戦うの。だからその思い出作りをしてるところなんだ」
「えっ?」
驚いて緑の瞳で見上げるススキ。今度は目が合っても逸らさない。
「ウチはバカだから高いところが好きだけど、父ちゃんに肩車してもらってる高さも同じぐらい好きなんだ。羨ましいでしょ」
「ちょ、コーイチの上ってそんな。じゃなくて、なんであたしが羨ましがらなくちゃいけないのよっ!」
きょどったと思ったら、顔を真っ赤にして反論してきた。好意がバレバレ。からかい甲斐があっておもしろい。笑ってたら睨まれた。
憎しみから裏返った愛情も味があっておいしい。
「おいおい、勘弁してくれエア。ススキを乗せたら俺が潰れちまう」
「あたしが重いって言うのっ! って違っ。別に乗りたいわけじゃないし、コーイチにそんなことさせたらホントに潰れちゃうし」
初々しいし、見ていて和む。
「あははっ。そんなわけだからススキ、父ちゃんの事お願いね。消えちゃいそうな程弱ってるときは押し倒しちゃっても構わないから」
「はぁ! 押し倒すってなんであたしが。そもそもチェルが黙ってないでしょ」
「大丈夫。チェル様だって父ちゃんの気持ちを第一に想ってるから。そうする事で心を折れずにいられるなら、チェル様だって歓迎してくれるよ」
ウチ達がいなくなっていく衝撃は、チェル様一人に任せるには大きすぎるから。
「だから、頼んだよ」
反論をむりやり黙らせて、お願いをススキに飲み込ませる。父ちゃんも物言いたげな雰囲気だったけど、黙っていてくれた。
これでやり残しはない。胸を張って戦いに行こう。




