439 風の相棒
今日はフォーレが昼食を作ってくれた。お野菜がたくさん入った煮込みラーメン。七割ぐらい緑色の鍋をテーブルの中央に置いて、みんなして小皿にわけながら食べるよ。
熱々だね。ハフハフしながら啜るラーメンって格別だよ。
テーブルを見渡すと、熱さに悶えてる父ちゃんに並んでチェル様が涼しい顔して啜ってる。熱くないのかな。
グラスなんてかなり冷ましながら食べてるのに。顔が険しいのは熱くて自分のペースで食べられない証拠なんだよね。
フォーレは麺を無視しておかずを先に食べてるし、ヴァリーは唐辛子とイチゴジャムを入れて食べてる。どこかの村の郷土料理風かな?
シャインは、ラーメンを食べずにチェル様やウチ、フォーレやヴァリーが食べている姿を眺めてお腹いっぱいな顔してる。のびるよ。
そして空いているみっつの空席。少なくなってきたな。
デッドにシェイ、アクアも入れて三人が勇者に敗北した証でもあるんだよね。やっぱり寂しい感じは否めないかな。
鍋からラーメンをよそっていると、チェル様の赤くて鋭い瞳と目が合った。
「エア。アクアからメッセージが届いたわ。次はアナタみたいよ」
やっぱりね。そんな予感がした。
「そっか。でもウチ一人だと自信ないんだよね」
「ん、エアは怖くなっちゃったか。だったら逃げるのもありだと思うぜ」
ウチが弱音っぽい発言をしたら、すかさず父ちゃんが逃げ場を作っちゃった。
そんなつもりはないって突っぱねたいところなんだけど、父ちゃんの方が失う事を恐れちゃってるから強く言えないな。
「ありがと父ちゃん。でもウチ、戦う事はすっごく楽しみにしてるんだよ。ただアクアが勇者側についちゃったから、ちょっと心細くなっちゃっただけ」
表情どころか全身から心配だってオーラを出す父ちゃんに、ニコリと不安を打ち明ける。
「怖じ気づいたのか、エア」
「だっさー。そんな気概なら戦う前に死んじゃった方がいいんじゃないのー」
グラスが疑問を口にし、ヴァリーがニヤニヤと嘲笑いながら罵ってきた。
父ちゃんが名前を呼んで窘めると、ヴァリーが渋々はーい、と返事をして麺を啜る。
「エアが不安がるのもムリはないさ。アクアと戦わなければいけない挙げ句に、勇者とか言う無骨な男と相対さなければならないのだ。ミーが傍にいて守ってやらねば、重圧に押し潰されてしまうかもしれない」
またシャインが自分の世界に酔い痴れてわけわからない持論を押し付けてきたよ。場の雰囲気が一気に白けちゃった。
「変なタイミングで口を挟むなシャイン」
グラスが厳格な口調でシャットアウトしようとする。
「まあまあグラス。ここはシャインの心意気を買ってあげようよ。ちょうどウチ、勇者と戦う為の相棒が欲しいと思ってたところなんだからさ」
シャインをフォローすると、当人以外から驚きの声が返ってきた。
「エア、まさか」
「シャインと組んで勇者達とアクアを迎え撃とうと思うの。だからシャイン、ウチと手を組んでよね」
然も当然としたり顔をしてるシャインが癪だけど、とても癪だけど、手を伸ばして握手を求める。かなりふざけた言動してるけど、いろんな実力持ってる事は知ってるんだから。
「レディに求められて断るなんてありえないね。よかろう。全女性の味方であるミーが特別エアの為に手を組もうではないか」
謎に不遜すぎる態度に伸ばした手を引きかけちゃったけど、堪えてシャインとの握手に応じたよ。
何はともあれ無事にペアも組めた。待っててねアクア、荒れに荒れた戦いを繰り広げちゃうから。




