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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第6章 本影のシェイ
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434 失い続ける未来

 (シェイ)を失った常闇城が崩壊を始めたところで、アタシたちは泣きじゃくるアクアを引き連れて脱出を始めた。

 アクアは無抵抗で元気がなかったけど、ぐずる事なく黙ってついてきてくれた。城内にシェイを残して。

 城の外には救出班と、救い出した人質達が待機してくれていた。

 人質は全員無事だったけど救出班の三割が負傷、内一割が戦死してしまっていた。魔物との戦いが激しかった事が窺える。

 ロンギングから共に旅をしてきた衛兵も二人減ってしまっていた。

 みんな傷だらけで被害は大きかったけれど、アタシ達の勝利を笑顔で迎えてくれた。

 けどその中で、救い出した人質達が不満そうっていうか、悲しそうな表情をしていたのが気になった。

 崩れゆく常闇城を背に、帰還の列を成して馬車が進んでゆく。

 シェイの支配から解放されたおかげか、行きよりも弱い魔物しか出現しないようになっていた。救出班の面々だけで護衛がまかなえそうな程に。

 アタシ達は二組に分かれて幌馬車(ほろばしゃ)の中で休ませてもらう事になった。ジャスとワイズとクミンの三人と、アタシとアクアのペア。

 たくさんの荷物が乗っている車内で、すっかり落ち着いたアクアと隣り合って座っている。

「ねぇ、アクア」

「なに?」

「シェイさ、常闇城に置いたままにしてよかったの?」

 アレほど抱きしめて泣きじゃくりながら悲しんでいたのに、亡骸(なきがら)を運ぼうとしなかったのが不思議でならない。

「うん。だって常闇城がシェイの墓場なんだもん。連れ出したりなんてしたら怒られちゃうよ」

 普段の口調を保ちながら、視線を定めないまま言い切るアクア。

「墓場って、崩れて崩壊しちゃう場所なんだよ」

「それでも、拠点で勇者と戦って敗れたんだもん。他に相応(ふさわ)しい場所なんてない。それに……」

 アクアはアタシに顔を向けると、悲しそうに微笑んだ。

「私だってアクアリウムを墓場にするつもりだったんだもん。思い入れもあったし、骨を埋めるならココって決めてたと思うよ」

 アクアは開いた左手を上に伸ばして、見上げながら話を続ける。

「私ね、勇者戦の一番手に選ばれた事はとっても運のいい事だって思ってたの。だって一番最初に死んだら、家族の死に直面する事がなくなるから」

 確かにそうかもしれない。アタシだっておとおさんが死んだときは悲しくてツラくって、出来る事なら体験したくない気持ちで埋め尽くされていたもん。

「でもなぜか生き延びちゃってる。そんでもってもう二回も、兄弟の死を体験しちゃった。覚悟はしていたんだけど、生きて欲しいってわがままが押さえきれなかった」

「当たり前じゃない。家族の死がツラくない人なんて、いやしないの。それにアタシ、アクアの事だって好きなんだから、そんな悲しい考えでいないでよ」

 アタシはアクアの手に手を伸ばして、指を絡めるように握り込む。(つな)いでないと、消えちゃいそうな事言うんだもん。繋いでいなきゃ。

「ありがとエリス。けどね、私は後、五回はツラい体験をしなきゃいけなくなる。勿論精一杯説得するつもりだけどね」

「諦めてんじゃないわよ。全員一発ずつぶん殴った後で、助ければいいじゃない。そんな未来、ツラすぎるわ」

 普段ヘラヘラしてるくせに、なんって覚悟を背負い込んでるのよ。バカなんじゃないの。アクアも、タカハシ家も。

 変にツラい話するせいで、アタシの方が泣きたくなってきたじゃないの。指を絡めたままだけど、見られたくないから顔だけは逸らしたわ。

「なんだか意外。一発殴っただけでエリスは許せるの? 五人の中にはエアだっているんだよ」

 突き刺さる言葉。おとおさんが殺された時の衝撃は今でも鮮明に思い出せる。小さな鳥の魔王も。思い出すだけで殺したくなってくる。

 けどソイツはアクアの兄弟で、殺したらきっと、さっきみたいにいたたまれないくらいに泣き叫ぶ事になって、失うっていう穴の奥底に落下し続けるような痛みを味合わせちゃうわけで……

 アクアの手を握っている手にミシミシと力がこもっちゃう。

「あーもぉ! 殴ってから考える! アイツは絶対許せないから」

「エリスもツラいね。でもその意気だよ。応援してるからね」

「少しは自分の気持ちも大切にしなさいよねもぉ!」

 ツラいのはアクアのくせに、応援なんかすんじゃないわよバカっ。

 アクアを握る手は強まる一方だった。

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