表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第6章 本影のシェイ
433/738

432 影の存在意義

(お父さん、シェイ死んじゃったよぉぉお! あぁぁぁぁぁぁあ!)

 俺はチェルと一緒に、朝から日課のヴェルダネス見回りをしている時だった。耳が痛いほど全力音声の訃報が聞こえたのは。

 シェイが……死んだ。

 静かに俺の傍に寄り添って支えてくれていたシェイが、(りん)とした(たたず)まいで武器を(たく)みに扱うシェイが、たまに無防備に甘えてくるあのシェイが。

 人々が行き交う道の真ん中で、唐突(とうとつ)に立ち止まってしまう俺達。

 隣を歩くチェルを見ると、驚いた表情で俺の事を見上げていた。アクアは俺たち全員にメッセージを飛ばしていたな。

「コーイチ」

 チェルは往来(おうらい)の真ん中であるにも関わらず、俺を抱き締めてきた。道行く人々の視線が集まっているけれども、思考がそこまで追いつかねぇ。

 チェルの顔がアホみたいに(ちけ)ぇ。密着する体温が熱くて、やわらかい。

「チェル?」

「今のアナタは捕まえておかないと怖いのよ。今にも消えてしまいそうな表情をしていてよ」

 消えそうな表情ってなんだよ。いくら打ちひしがれてたって急に消滅なんかはしねぇっての。

「気をシッカリ持ちなさい。心が薄れていてよ。コーイチは私の魔王であり、あの子達の魔王でもあるのだから」

 いつだったかな。昔シェイが言っていたっけ。

 自分には父上という光があります。だから影として濃く存在を示す事が出来るのです。だから父上は温かな光であり続けて下さい。自分の存在がいつまでも薄れぬように。

 俺の心が薄れたら、シェイが存在していた事そのものが薄れちまうってか。

 大好きですよ、父上。

「シェイ……」

 ふいに俺を抱きしめていたチェルの姿が、じゃれついてくるシェイに見えてしまった。あの子は抱きしめるなんて甘え方はしないっていうのに。

「瞳に輝きが戻ってね。この際、私を別の女に重ねていた事は不問にしてあげるわ」

 妖艶(ようえん)に微笑んだ瞬間、シェイの幻が(うっす)らとチェルに戻った。伸ばされた指が俺の頬をやわらかくて包んでゆく。

「仕方ねぇだろ。かわいい娘だったんだからよ。最後まで世話かけちまったのが申し訳ないぐらいだぜ」

 俺の気持ちが死んじまわないように先回りをしてたんだかんな。ホント、情けねぇ父親だぜ。

「なんって緩い微笑みをするのかしらね。色んな人に見られている自覚はあって?」

 見られてる? ここどこだっけ?

 チェルに指摘され、左右をバッバと確認する。

 そうだよヴェルダネスだよ。みんな隠しもせず温かい視線を送ってやがるじゃねぇか。気がついたらすぐ傍にススキもいたしよぉ。

「やっとあたしの存在に気づいた。二人の世界に入るのもいいけど、場所(わきま)えなさいよね」

 腰に両手をつけて呆れてやがった。どことなくふくれ(つら)な雰囲気が妙に嬉しくて、頭をポンポンと叩いてしまう。手で軽く弾かれた。

「いきなり何すんのよ」

「いやなんとなくな。ススキはそのまま生きててくれよ。頼むぜ」

「意味わかんないけど生きてやるわよ。その代わりコーイチもちゃんと生きるんだからね、いい」

 人差し指で鼻先を突つかれながらススキに言い返されちまった。チェルが思わず吹き出す。

「ちょ、チェル」

「ふふっ、一本取られてしまってね。コレは死ねないわよ、コーイチ」

 きっと俺はこの先も、あまのじゃくな微笑みに翻弄(ほんろう)され続けるんだろうなと予感したぜ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ