430 途絶えた光
視界が熱い。世界が闇で閉ざされた。取るに足りないと思っていたエリスの矢で致命的なダメージを受けてしまった。
いや、そこはもう仕方がなかったのでしょう。問題はその前のアクアとの攻防。
自分が仕掛けた攻撃は正面に見せかけた背後、を演じての正面。
決まると思っていましたし、途中で確信も感じました。
現にアクアの背後をとった時、正面を貫こうとしていたトライデントが止まったのを確認しました。
その硬直は自分が背後に回ったと気づき、反射的に反撃しようとした証拠でもあります。
予測では、振り返りざまにトライデントで薙ぎ払いをしてくる。
後はタイミングを合わせて正面に戻るだけ。アクアは致命的な隙を晒すはずでした。
だというのにトライデントはまっすぐ正面を貫いていた。防御こそ間に合ったものの、追撃には反応が遅れてしまった。
詰まるところアクアは自分の戦術を完全に読み切っていて、エリスはそんなアクアを完全に信頼していた。でなければ完璧な追撃など不可能。
アクアとエリスは、想像以上に信頼し合っていたのですか。
「もう終わりにしようシェイ。そんな状態じゃ戦えないでしょ」
心配そうなアクアの声。もう終わったつもりでいるのですね。
「舐めないでいただきたい。例え視力を失っていても、戦う術は残っています」
両手に影を集めて再び剣を形成する。確かに見えませんが、大まかな気配は感じ取れます。この程度では、まだ終われません。
「槍雨」
「あっ」
無数の槍の雨が降ってくる事を想像する。ダメですね。視力を失った状態で槍雨を捌ききる事は不可能です。
もっとも攻撃の気配がないので言葉だけの脅しでしょうけどね。屈しなければ本当に降らせてくるのでしょうけども。
弱っていたみっつの気配も少しずつ活気を取り戻していますね。アクアに気をとられている間に、回復魔法と手持ちのポーションで応急処置を済ませたのでしょう。
時間が経つほど勇者一行が万全になってゆく。しかも中心にアクアがいる状態で。
詰みましたね。両手に形成した剣を、影へと霧散させる。
やっぱり自分は、アクアには敵わなかった。
自分たち兄弟の中で、心を輝かせながら成長していくアクアには目を奪われてばかりでした。
影に潜んで暗躍するのが得意な自分とは対極にある優しい強さ。
父上に劣らないほどの自分の光。愛し愛される明るい癒やし。
常時こそ優しさに沈んでしまっていた実力。発揮したときのアクアに自分は、勝ってみたかった……
「完敗です、アクア」




