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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第6章 本影のシェイ
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429 一瞬の硬直を

 油断なく双剣を構えるシェイ。隙がなくてやんなっちゃう。私も負けないように(にら)み返してるんだけど、攻め手がないんだよね。

 ……なかなか仕掛けてこない。二回連続で山勘当てたおかげでシェイも攻めあぐねてるのかも。だったら今がチャンスかな。

「エリス聞こえる」

 シェイと視線をぶつけたまま、声を張り上げる。

「何よアクア。弱音は聞かないわよ。押してるんだから一気に倒しちゃってよ」

 (きび)しい事言ってくれるな。熱いくらいの期待は伝わってくるんだけどね。

「私一人じゃムリ」

「はぁ?」

「だからさ、エリスも手伝ってよ。なんとかしてシェイの隙を作り出すから、その一瞬を逃さないように射止めて欲しいな。エリスの出来る最速の一矢で」

 私もがんばってるんだもん。エリスにもがんばってもらわないと。

「アクア、けどアタシの弓じゃシェイには敵わないよ」

 コテンパンにやられちゃって心が弱ってるのかな。傷も負ってるもんね。けどまだ戦える。力を合わせられる。

「だから私が隙を作るの。どんな攻撃でも通る、心の隙を。たぶん次が最後のチャンスになると思うの」

 いくらシェイだって強敵を倒した瞬間には喜びと充実感で隙が生まれると思う。私が強敵になれているかは置いておくとしても、ソレしか隙を見いだせない。命懸けで勝機を作ってやる。

「だからお願いねエリス、任せるよ」

「アクア……もぉ、どうなっても知んないんだからねっ!」

 背中越しにエリスの気迫が強くなっていくのを感じる。エリスは期待したら応えてくれるから、後は私次第だね。

「作戦会議は終わりましたか。そろそろいきますよ」

「望むところだよ」

 予測しろ私。シェイは思考の裏をとろうとしてくる。今まで攻撃方向を背後、上と読み勝ってきた。だとすると次の裏は……正面!

 シェイが動き出した瞬間に、トライデントを前へと突き出すための溜めを作る。双剣を振り上げるシェイが予測位置に出現した。

「はぁぁぁぁあっ!」

 突きを放とうとした瞬間。シェイの口元が弧を描いた。ヤバい。目の前に現れたのはフェイクだ。

 シェイが正面から影に潜り込むように消えた。背後から膨れ上がる殺意。正面へと突き動かそうとしていたトライデントはむりやり止める。

 違う、ここだ。今反射的に振り向いて背後のシェイに反撃を決めちゃダメ。確かに間に合って一難(いちなん)(のが)れる事は出来るかもしれないけど、エリスに隙を作ってあげる事が出来なくなる。

 私は読みを外した。シェイは策略を見事に成功させた。不自然さのない決着が、すぐ傍にある。シェイに隙が出来る状況が完成してる。

「エリスぅぅぅぅうっ!」

 千載一遇のチャンスだよ。頼んだからね。

 止めかけたトライデントを再び前へ勢いよく突き出す。シェイが消えてしまった事に気づいていない愚か者を演じる為に。

 薄闇を貫くはずのトライデント。の先に再びシェイが影から戻ってきた。

「えっ?」

「なっ!」

 振るおうとしていた双剣をクロスさせ、咄嗟に防御態勢を取るシェイ。

 けど私は迷いを捨てて勢いよくトライデントを突き出していた。シェイは見事に防いだものの、宙にいたせいで勢いを殺しきれずに後方へと激しく吹っ飛ばされる。

「えっ……えっ?」

 どうして正面に戻ってきたの? なんで防がれてとはいえ、渾身の突きがヒットしたの?

 両足で踏ん張って勢いを止めようとするシェイを眺めながら、頭の中が疑問符(ぎもんふ)で満たされる。

「まさか今の攻撃も読まれてしまうとは思いませんでしたよ、アクア。しまっ!」

 シェイが吹き飛ばされた勢いを殺しきり、顔を上げた瞬間にエリスの矢が飛来した。

 反射的に頭を振って避けようとするシェイ。放たれた一矢はシェイに当たらず、奥の壁へ刺さった。

「っ! 外した」

 なんでこのタイミングでエリスの矢が飛んでくるの? 私の想定してた隙と遙かに違ってたのに、どうして合わせる事が出来たの。

 シェイの双剣が霧散して、細くて白い腕が(あら)わになる。

「……うっ、あっ……あぁ……」

 頭を後ろに向けていたシェイが、苦しそうにうめきながら顔を両手で押さえた。(つむ)られた大きな目からは、赤い液体が流れている。

 まさか、エリスの放った一矢がシェイの大きなひとつの目をギリギリ(かす)めた?

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