425 自動追尾
「来ましたね」
シェイは不敵に笑うと、躊躇いなく逃げを選択した。今まで散々ボクたちを苦しめてきたスピードで、必殺の脅威から逃れる為に走る。
ムダだ。ボクのブレイブ・ブレイドは標的を切り裂くまで追尾し続ける。足に自信を持っているようだけど、ソレでは逃げ切れない。
高速で逃げるシェイを眺めながら、ボクは二発目のブレイブ・ブレイドを準備する。
仮に何か切り札があったとしても大丈夫。この万全の態勢を突破する術は、ない。
「さすが噂に違わぬブレイブ・ブレイド。自分の速さについてくるどころか迫ってこようとは。ペースを上げましょう」
ジリジリと差を詰めるブレイブ・ブレイドに焦ったのか、シェイは影に潜りながらの回避を試みた。
ブレイブ・ブレイドが床を、壁を、天井を切り裂きながら隠れた標的を追い詰める。
「残念だったね。影に隠れた程度では、ボクのブレイブ・ブレイドを欺く事は出来ないよ」
例え壁や床が阻もうとも、目標へ到達するまでブレイブ・ブレイドが消滅する事はない。どんな障害物だろうと止める事は不可能だ。
そしてブレイブ・ブレイドは迷う事なくシェイを追い詰めている。出来そうな事と言えば、逃げながらボク自身に反撃をするぐらいだろう。
「さぁ、最後の足掻きを見せてみろシェイ。ボクはどんな方法でも対処しきってみせる」
「ではコレでどうですか」
不意に背後から聞こえた冷たい声。真後ろにいる。振り向くと背中合わせの状態で、微笑みながら横顔を向けている。
マズい、早く振り返らなくてはっ。
「正面、注意した方がいいですよ。迫ってきてますから」
「はっ? なっ!」
真後ろにいるシェイに向かって、ボクの正面からブレイブ・ブレイドが襲い来る。
「古典的ですが、コレが自動追尾の弱点です。放っておけばアナタという障害物なんて切り裂いてしまいますよ」
「うっ、うわぁぁぁぁあ。ブレイブ・ブレイドぉぉぉぉおっ!」
準備しておいた二発目のブレイブ・ブレイドを咄嗟に放って相殺を図る。
同じ威力を持った必殺技同士のぶつかり合いは、狙い通りに対消滅を起こした。
「はい、ご苦労様でした。おかげで助かりましたよ。コレはお礼です」
背中を走る複数の熱い線。剣を握る手が開かれ、正面から俯せに倒れ込む。
「ぐっ……がぁっ……」
背中が熱い。動こうとすると痛みが走る。頭も回らない。回復……ダメだ、集中が途切れっ……
「がっ!」
頭に鋭い衝撃が走る。グリグリと重い何かを押し付けられる。踏まれてる?
「これで詰みですかね。あらがえるならあらがってもらっても構いませんよ。ぜひ底力を見せて欲しいところです、よっ!」
「ぶっ!」
頭を蹴られて脳が揺さぶられる。ボクもワイズもクミンも動けない。エリスは動けるだろうけど、一人でシェイに立ち向かうのはムリだ。
ボクたちは……負けるんだ。




