423 襲い来る刃と付き纏う影
シェイは折れた刀を握ったまま影に潜ると、ボクたちから距離を置いたところに現れた。呆然と壊れた武器を眺めている。
「まさか鞘ごと叩き折られてしまうとは、恐れ入りましたね」
両手に武器を握ったままブラリと腕をさげるシェイ。
「武器を失ってボクたちと戦うのはツラいだろう。降伏するなら今がチャンスだ」
両手で剣を握り、切っ先を向けながら提案する。シェイは武器を失っていても油断ならない。
スピードと体術、投擲武器まで使える事を考えたら臨戦態勢なんてとても解けない。
仲間達も油断せずに武器を構えている。
「滑稽ですね。怯えながら降伏を促している姿は」
シェイは嘲笑を浮かべると、持っていた武器を床へと落とした。
「まぁ自分は、デッドのように武器に思い入れなど持ち合わせていないので。特に怒りとかは感じませんよ」
まだ遠い距離から歩み寄ってくるだけなのに、増幅する黒いオーラに尻込みしてしまいそうになる。身体が強張って仕方がない。
「気に入ってはいましたけどね。けど刀遊びはあくまで前座、準備運動。身体はほぐれましたね。本気でいきますよ」
魔王シェイが黒い輝きを放つと、身体の形状を変えてゆく。人間のソレとは明らかに違う色白の肌に、大きな黒目の単眼。
変化こそ少ないものの、紛れもない魔王シェイ本来の姿。細く艶やかな両手を左右に伸ばすと、影が凝縮して黒い剣の形を成した。
腕と一体化した双剣。本来の戦闘スタイル。
「まずは挨拶といきましょうか。暗技・影刃」
シェイが呟いたと同時に、ボクたちの影から様々な黒い凶器は襲いかかってきた。
「なっ!」
ボクたち全員の驚愕した声が重なる。避けながら剣を振るい、影から次々と伸びる黒い槍を、黒い剣を、黒い鎌を叩き落とす。
「えげつない攻撃してくれるじゃないか!」
「シャレになんねぇぞバカヤロー!」
「速いっ。速いってちょっと!」
クミンは大剣を防御に使いながら逃げ、ワイズは下級魔法で撃ち落としながらどうにか難を逃れる。
エリスは身軽さを生かしながら跳んで躱す。
ボクは四方八方の影から襲いかかってくる凶器をどうにかしながら、どこかで感じた既視感を思い出す。
そうだ、アクアがエリスに施していた水溜まりの特訓だ。アクアは槍ばかりを形成して訓練をしていたけど、間違いなく影刃に対処できるようにする為の特訓だったんだ。
アクアが鍛え上げた代物か、エリスは辛うじて逃げ回る事が出来ている。けども影刃は訓練よりも遙かに多くて、速い。
防戦一方すぎて反撃をするどころじゃない。
「床に囲まれてっから対処が多くなりすぎんだ。だったら!」
ワイズが何かをひらめくと、全力疾走で影刃から逃げ出した。そして壁に背を向け、ニヤリと笑って杖を構える。
そうか。壁際なら正面の影にだけ対処をすれば……
「この場所なら背中から攻撃はできっ……グガぁ!」
「ワイズっ!」
「なぜ、壁に影が出来ないなんて思い込んだのですか?」
壁から伸びた数々の影刃が、ワイズの身体を後ろから貫いてしまった。




