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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第6章 本影のシェイ
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421 見える悲しみと見えない悲しみ

「さっきから知らない名前ばっかり、誰の事言ってんのよ」

 エリスが様々な属性を纏った矢を連射すると、シェイは右手に影を凝縮させ鋭い投擲(とうてき)武器を作り出した。

「あなた方が直接(ほふ)ってきた、奴隷戦闘部隊の名前ですよ」

 シェイは手首のスナップを利かせながら、投擲武器を投げて矢を相殺する。

「闇スリケン」

 魔王シェイは素早い接近戦を得意としながら、遠距離攻撃まで使えるのか。

「部下の名前まで覚えてっとはなぁ、随分入れ込んでたみてぇじゃねぇか」

「けど戦いを仕掛けたのはそちら側だよ。アンタだけが失ってるわけじゃないんだ」

 ワイズが風魔法を乱打してシェイの足を止め、クミンが硬直を狙って大振りを放つ。黒髪が少しだけ、ハラリと散った。

 そうだ理不尽に命を散らされたのは敵側だけじゃない。平和に暮らしていた人々だって、いたずらに肉親を失って(なげ)いているんだ。

 巻き込まれた人が受けた理不尽な悲しみに比べたら、戦いを仕掛けておいて失い嘆くのはわがままに過ぎる。

 ボク自身に回復魔法をかけ、クミンと挟み撃ちを仕掛ける。

「道理ですね。戦いには目に見える形で悲しみがつきまとってしまいます。奴隷部隊といえば、ロンギングへ向かわせた間者(かんじゃ)も失いましたっけ」

「驚いた。まさかそんなところにまで君のスパイが紛れ込んでいたとはね」

 シェイは挟撃(きょうげき)を受けているというのに、余裕を持って会話を続けてくる。衝撃の事実ではあるけど、心を揺さぶられるほどではない。

「メイドとして紛れ込ませていたのですがね。自分たちが強襲した際に命を落としてしまいましたよ。手を伸ばしてさえくれれば彼女も救えたのですが」

 クミンの大剣を(かわ)しながら、ボクの剣に刀を合わせて防ぐシェイ。間隙(かんげき)の矢も低級魔法も紙一重で躱されてしまう。

「残念だっただろうけど、自業自得だ。あの襲撃の被害は重すぎた」

 マリーを守り切れなかった。目の前で、見えていないところで、様々な命を失ってしまった。

 重責を担う人材も、人懐っこくて心が安まる従者も、思い出したらキリがないほど失ってしまった。

 剣を握る手に力が入る。

「優秀だったのですよ。遮断されるはずの情報を繋げ、襲撃の日に勇者パーティを集結させる偉業をやってのけたのですから」

「何だって」

 心を揺さぶられた瞬間、左腕に鋭い痛みが走った。軽めに斬られたけど、浅い。

「仲間達とはだんだんと音沙汰(おとざた)がなくなっていたのではありませんか? ソレは少しずつ意図的に手紙を処分されていたからなのですよ」

 心を刻む言葉が、刀と共に襲いかかってくる。所々に浅い傷が増えていく。

「ありえない。仮にそうだとして、ボクと仲間達との友好(ゆうこう)を断ち切る必要がどこにある」

「助言をされたら困るからですよ。都合のいい平和な世界で、勇者様にはお飾りになっていただかねばならなかったのですから」

「聞くなジャス! ファイアボール」

 シェイはワイズの火球魔法を一刀しながら、言葉を続ける。

「戦いでの悲しみは見えやすいけれども、平和の裏で平然と行われる悲しみは気づきにくいものなのです」

「そんなことを理由に、襲撃した事を正当化しないでよ!」

 エリスの怒りを込めた矢は、闇スリケンなる物で簡単に弾かれてしまう。

「正当化していれば何をやってもいいわけではないのですよ。だから奴隷部隊は自分についてきたのかもしれません。アキもイツキも、ウメもエイジも、ヒナも」

「ヒナ、だと」

 脳裏に蘇ってきたのは、落ち着いているけど元気はよくて一生懸命で毒のないメイドの少女。一番気の置けない存在だった従者。

 まさか、いや彼女のはずがない。スパイは同名の別人だ。きっと。

「まぁ、あなた方からすれば知った事ではない敵の事情ですよ。そろそろ終わりにしましょう」

 シェイは一頻(ひとしき)り真剣な表情をすると、ボクの間合いに高速で踏み込んできた。

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