418 全滅
コタツに入りながらたっぷりと疲れを癒やしたボクたちは、黒い引き戸を開けて先に進んだ。
短い一本道。奥には黒色の引き戸。そして戸の向こうから、ボクたちを切り裂かんとする鋭い闘争心が発せられている。
間違いなくいる。魔王シェイが。
「おいおい、扉越しでこの圧力かよ」
「ビビってんのかいワイズ。玉の小さい男だねえ」
「頼もしい言葉で嫌になんぜ」
ワイズとクミンが身震いをしながら言い合う。
エリスは緊張で顔を強張らせ、アクアはぎこちない笑顔を浮かべている。
「覚悟はいいかい。いくよ」
両手で引き戸に手をかけ、勢いよく左右へ開ける。
薄暗く拾い室内に、黄緑色の砂壁。床には草の臭いがする床材が敷き詰められている。
「随分とごゆっくりされていたようで。常闇城はいかがでしたか」
部屋の中央で正座をしながら、魔王シェイが問いかけてきた。傍には刀が置いてある。
透き通るほど白い肌に黒い瞳。眉前で切りそろえられた艶やかな黒髪。身体の線は細く小柄で、触れたら折れてしまいそうな繊細さをしている。
だと言うのに、視線の鋭さが柔な幻想を嘲笑っているかのようだ。相対しているだけで油断が出来ない。
「趣味の悪い仕掛けばっかでゲンナリしたぜ」
「お気に召さなかったのですね。預かっている子達には受けがよかったのですけどね。甲高い叫びが絶えなかった程ですよ」
まさか、人質達をあの極悪な罠で弄んだというのか。
「おぉ怖い。ちょっと遊んであげただけだというのに、そんなに睨まないで下さいよ」
魔王シェイは刀を持って立ち上がると、薄ら寒い笑みを浮かべた。
「あんたの野望もここまでだよ。今頃救出班が人質を助け出してるところだからね」
クミンが大剣を構えながら啖呵を切る。歯を噛み締め、一挙手一投足を見逃さないよう視線を鋭くする。
「あぁ、そのことですか。安心して下さい。預かっていた子達は無事に、あなたたちの救出部隊が回収しましたよ」
呆気なく朗報を伝えられる。信憑性の欠片もないけども。
「にしてもガッカリです。奴隷部隊は自分が手塩にかけて育てた部隊なんですけどね。呆れを通り越すほどの無能でした。一人残らず全滅してしまうとは」
「なっ」
ボクだって一人しか知らないけど、その言い草はない。赤目の少女が死してなお、あれほどまでに魔王シェイを慕っていたというのに。
「随分と冷てぇ言葉じゃなぇか」
「その言い方はないんじゃないかい。あの子が聞いたら悲しむよ」
「あんなに忠誠心凄かったのに、無能呼ばわりするなんて酷いじゃない」
やり場のない怒りを覚えたのはボクだけではない、ワイズもクミンもエリスも怒りを表情に表していた。
「無能ですよ。揃いもそろって、簡単な命を全うできないだなんて」
静かな怒りが溢れ出てきて、思わずたじろいでしまった。押し込めている殺意が溢れ出てくるようだ。
「バカな部下達のおかげで、一矢報いたくなったじゃありませんか」
魔王シェイは視線を鋭くさせながら、鞘に入った刀を両手で持って正面に突き出した。右手で柄、左手で鞘を握っている。
「自分はシェイ。シェイ・タカハシです。手合わせ願いましょうか」
宣言すると同時に、姿勢を低くして突っ込んできたのだった。




