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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第6章 本影のシェイ
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417 入ったら出られなくなる最強の罠

 赤い瞳の少女を倒して大部屋を抜けると、薄暗くて何もない一本道が続いていた。

 ただ長いだけの通路だというのに、一人でいると心細くなって仕方がない。

 他のみんなは無事だろうか。おそらく全員のところに奴隷戦闘部隊が待ち受けているはず。(おく)れをとっていなければいいけど。ん?

 歩いていると正面に、紙で出来た引き戸が見えてきた。

 通路とは違う、いかにも用意された(てい)の部屋。何かある。

 緊張感を高め、警戒をしながら戸を開く。小部屋の中央に人影がみっつ待ち受けていた。

「ん? 遅かったなジャス。ってその傷跡、おまえむちゃくちゃ苦戦しただろ」

 ワイズが振り向きながら見上げると、軽く手を上げながら笑いかけてきた。

 部屋は小さくて、中央に掛け布団を挟んだ低いテーブルが置いてあった。ワイズの他にアクアとエリスがテーブルに足を突っ込んでいて、ミカンとお茶を(たしな)んでいる。

「ワイズ。エリスにアクアも。無事そうで安心したけど、随分と(くつろ)いでないかい」

「ジャスもコタツ入りなよ。疲れてるでしょ。今お茶を()れるね。急須(きゅうす)にお湯にミカンまで用意してくれるなんて、シェイってば気の利いたサービスしてくれるんだから」

 アクアがニッコニコの笑顔で取っ手のついてないコップに緑色のお茶を注ぐ。落ち着く香りが漂う。

 こんなに油断しきっていて大丈夫なのだろうか。魔王シェイがわざわざ用意した部屋だというのに。

 コタツ、でいいのかな。の空いている所にお茶を差し出されたので、とりあえず入る事にする。

「……温かいな」

「だろ」

 感想を漏らすとワイズが微笑んだ。どういう仕組みかコタツの中は温まっており、戦闘で疲れていた冷えた身体を癒やしてくれる。

「ジャスも気に入ったみたいだね。コタツは入る者全てを出られなくする呪いの暖房器具なんだよ」

「急に不穏な言葉を放つのはやめてくれないかアクア」

 入ってしまった後で呪いとか言わないでほしい。

「バカな事言わないでよねアクア。足を繋がれているわけでもないのに出られない呪いなんてあるわけないじゃない」

「だったら今すぐコタツから出てみてよ」

「寒いからイヤ」

「でしょ」

 なんとも微笑ましい呪いだ。

「なぁ、ワイズ。ボクたちは、正しい道を進んでいるよね」

 少女の言葉が頭から離れずワイズに尋ねる。

「あーあ。敵の言葉を聞いちまったなジャス」

 ワイズは両手を後ろについて天井を見上げた。

「つまんねぇ事は気にすんな。オレ達はオレ達の道を(つらぬ)ければそれでいいんだよ」

 そうだろうか。答え合わせと言っていたのがどうも気にかかってしまう。

「ワイズも奴隷部隊と戦かったんだろ。何か話さなかったのか」

「聞かなかった。聞いたってしょうがねぇかんな」

 両手を組んで枕代わりに仰向けになるワイズ。

「知らねぇ方がいいんだよ。敵の事情なんてよぉ。戦いづらくなるだけだ」

「わかっている。わかっているけども」

 けど、敵の状況や感情は無視してもいい物なのだろうか。

「なんだか湿気(しけ)った話してるねぇ」

「クミンか」

 上から聞こえた声を視線で辿ると、天井の一角が開いていた。クミンがそこから降りてくる。傷だらけじゃないか。

「すぐに回復しよう。ヒール」

「助かったよジャス。けど、座りながら施すなんて随分とラフじゃないかい」

 ボクはコタツに入ったまま、手を伸ばして回復魔法をかけていた。なるほど出られない。

「よぉクミン。遅かったし随分手こずったようだな」

「遅かったのは仕掛けのせいだよ。ソレより全員揃ってるんだろ、行かないかい」

 クミンが親指で、黒色に染まった紙の引き戸を指し示す。

 ボクとワイズとエリスが視線を向けていると、トンとテーブルの上で音がした。

「はい、お茶。クミンも一服した方がいいよ」

「ありがたいけどねアクア、悠長(ゆうちょう)に時間を潰してる場合でもないだろ」

「いいから身体を休めよ。体勢を万全にするのも必要なんだから」

 急かすクミンだったけど、アクアの有無を言わさぬ態度に折れた。

 結局ボクらは、コタツからなかなか出られない時間を過ごしたのだった。

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