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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第6章 本影のシェイ
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416 意地と願い

 へぇ、なかなか鋭い気迫を放ってくるじゃないの。

 弓を引き、矢先を向けながら風の魔法を(まと)わせる。さっきは軽く弾かれちゃったけど、今度はどうかしらね。

 少年は落胆(らくたん)したような溜め息をついてから、駆け寄ってきた。

 そのガッカリした顔、驚愕(きょうがく)に変えてやるわよ。

 風を纏い、速度の上がった矢を連射する。

「くだらん小細工です。多少速度を上げた程度でなんですか」

 文句を言いながらあっさりと矢を斬り捨てるんじゃないわよ。

 接近を止められなかった事で、思わず後ろへ跳んでしまう。

「アクア様に目をつけられてるからどのような底力があるのかと思ったのですが、やはり期待外れです」

 二本の刀がアタシを目がけて振り回される。途切れる事のない連続攻撃。

 速い、けど見える。

 攻撃を捨てて回避に専念すれば全然避けられるじゃない。

「何っ」

「ははっ。大袈裟な事言ってたわりにはアンタの攻撃も大したことないじゃないの」

 尋常じゃない殺気はこもってるんだけど、その分軌道が想像しやすい。それに、泣きながら熟してきたアクアの特訓の方が何倍も見えなくて速かったわ。

 だんだん慣れてきたわね。次の横振りに合わせて、っと。

 ジャンプして上を取りながら、驚いて見上げている少年に炎を纏った矢を放つ。後ろに跳んで避けられちゃったけど、コレで距離が開いた。

 着地したところで再び風を纏い、連射する。今度のはちょっと意地悪にしたんだから。

「距離が離れたらバカのひとつ覚えのように速い矢ですか。何度だって叩き切って……なっ!」

 距離を詰めようと駆け寄りながら一本二本と矢を弾いてた少年だったけど、三本目を空ぶった。

 三本目は何も纏ってない普通の矢よ。速い矢が来るって予測してたところを狂わせたから、タイミングを合わせられなかったようね。

 とっさに身体を反らして避けようとしたけど、頬にかすり傷を負った挙げ句に体勢を崩したわ。

「人の事をさんざ見下してたあんたの負けよ」

 勝利を高々と宣言しながら、雷を纏った矢を放つ。かすっても弾いても身体が(しび)れて動けなくなるわ。

「その程度でっ」

 少年は刀で矢を弾き、痺れたはずの身体で立ち上がる。

「オレよりも期待されているだなんてっ」

 走ってきた。けど、動きがいびつ。やっぱり痺れてる。

「断じて認めません!」

 気迫が大きい。止めなきゃ。ワイズ、技借りるから。

 炎を纏った矢を放つ。少年が右の刀で弾くと、途端に右腕ごと凍り付いた。

 よし騙された。見た目炎属性で本命氷属性の矢。

「うおぉぉぉぉぉお!」

「ちょ、止まりなさいよバカ」

 右腕が凍ろうとお構いなしに突進してくる少年に、雷を纏った矢を拡散するように連射する。

 軌道は大きく逸れるけど、矢同士で電流を繋げてある。間を通れば(あみ)にかかるように電流が流れるんだから。

 左の刀で電流そのものを断ち切ろうとし、感電してダメージを受ける少年。それでも足を動かし続ける。

「邪魔だっ、消えろぉ」

 凄い意地だよ。けどもう、身体がついてきてないわ。

 遅くなった袈裟斬りを躱し、至近距離から胸を目がけて矢を放つ。感電して右腕が凍っているズタボロな状態じゃ、さすがに避けられない。

「途中で負けを認めなさいよね、バカ」

 少年は胸に矢を受け、刀を手放して仰向けに倒れ込む。

 天井に震える手を伸ばしながら、焦点が定まらない青い目をして口を開く。

「アクア様……シェイ様から一目置かれているあなたがなぜ、戦って下さらないのですか」

「バカね。家族なのよ。戦いたくないに決まってるでしょ」

「わかってない。家族だからこそ、追い越したいと願うものなのです、よ……」

 伸ばしていた手から力が抜け、床へと落ちた。

 終わったところでアクアが近付いてくる。

「君もおかしいね。シェイが私を追い越したいだなんて思ってるはずないよ。シェイの方がずっと強いんだもん」

 少年を見下ろしながら笑顔で言い捨てるというか、断言するアクアに疑問がよぎる。

 ねぇアクア。もしかしてそう思ってるのは、アクアの方だけかもしれないわよ。この子の意地と願い、なんだか切実だったもん。

 言えずにアクアを眺めていたら、視線に気づいて笑顔を向ける。

「さすがエリスだね。かっこよかったよ。さっ、先に進もっか」

「アタシがかっこいいなんて当然でしょ。アクアに言われるまでもなく進むわよ」

 疑問は胸の奥に飲み込みつつも、褒められた事には素直に喜んでおくわ。

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