414 道を貫く事
閃光のように痛みが頭を駆け巡る。薄暗いはずの天井が赤く染まっている。鉄の臭いがツンと鼻を刺激している。
「……っ!」
遠く激しい声が聞こえる気がする。けど意識が集中しない。
仲のいい友達と遊んでいたかった。力がないから奪われてしまった。魔物に襲われ、命が奪われる間違った日常。
ボクは勇者として目覚めて、正しい道を勝ち取る為に死に物狂いで強くなった。当たり前の日常を壊させない為に。
魔王アスモデウスを倒して、誰もが笑って暮らせる日常を掴み取った。正しい道を進み通したから、平和な景色を見られるようになった。
タカハシ家が間違いを犯したせいで、ボクは大切な人を失った。惨劇が人々を不幸にし、みなが大切な誰かを失ってしまった。
やはり、道は間違えられない。
意志が無意識に剣を握っている右腕を突き伸ばさせた。
「なっ……あっ……」
右腕にのしかかる重み、降り注ぐ生暖かい液体。意識がシッカリ戻ると、ボクは宙から襲いかかる少女の身体を突き刺していた。仰向けに倒れた状態で。
驚愕にオレンジの瞳を見開きながら、ボクの隣に落ちてくる少女。深々と刺さった剣が、痛ましくて仕方がない。
意識がハッキリすると同時に、痛みと気持ち悪さが襲いかかってくる。
そうだ、腹と額に攻撃を負ったんだ。
「ヒール」
回復魔法を使うと若干痛みが引いていった。まだ頭はグワングワンするし、気持ち悪さも継続している。けど辛うじて動けるようにはなった。
「ちょっと、意識失ってたでしょ……なんで動けたのよ」
息も絶え絶えに、か細い声が口から漏れ出てくる。
「正しい道の為に、身体が勝手に動いたんだ。まだこんなところで終われない」
このまま何の手当もしなければ死んでしまうだろう。早く治療を施さなければ。
「勇者って窮屈ね。ゴホっ。選んでる道が間違ってるだなんて、思いもしないんだもん」
「文句は後でいくらでも聞いてあげるから、今は身体を休めるんだ。剣を抜いてすぐに回復魔法をかける」
「あーあ、あとちょっとで倒せたのにな……いいよ。勝手に正しいと思う道を突き進めばさ。後で答え合わせて、泣いてもしんないんだから」
少女は微笑みながら懐に手を突っ込み、丸いものを取り出して火をつけた。
「シェイ様。ワタクシ、楽しい人生だったよ」
「なっ」
少女の持っていた物が爆発し、ボクの剣が足下に転がってきた。
煙が収まった後に、少女の面影は残っていなかった。
「どうして、最期まで間違った道を突き進んでしまったんだ」
少女一人助け出す事が出来なかった無力感に苛まれながら疑問が浮かび上がる。
無意識に思い出した幸せに、なぜかマリーとの甘い日々が入っていなかった。




