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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第6章 本影のシェイ
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412 捨てる命と拾えない命

「しかし頑丈な足ですね。(けん)ぐらいは切り裂けたと思ったのに」

生憎(あいにく)、やわな鍛え方はしてないからねえ」

 啖呵(たんか)を切ってみたものの、切られた足は万全とはいかないかい。下手に強い相手は加減がしづらくて厄介だよ。

 ギリっと奥歯を噛みながら少女を睨み付けるよ。

 赤い眼光で睨み返しながら、ジグザグと左右に揺れながら突っ込んできた。

 大振りはリスクの方がデカい。悔しいけど、防御主体で動きを見させてもらうよ。

 突き出される一対の短剣に大剣を合わせてひたすら弾く。ラッシュが速すぎて反撃する余裕がない。

「どうです、シェイ様仕込みのスピードは。速すぎて反撃に手が回らないでしょう」

「随分と魔王シェイを持ち上げるじゃないかい。気まぐれで拾われただけかもしれないのにさあ」

 素早い連撃に押されて身を引きつつも、気合いだけは負けないようデタラメに言い返す。

「気まぐれで結構。ワタシたちは運良く拾ってもらっただけでなく、シェイ様の手足となれるように鍛えてもらえたのです」

 左右バラバラに、時には両方を同時に銀線の軌道を描き続ける。

「拾ってもらえた恩に(むく)いれる、これ以上の感謝はありませんよ」

「はっ! いいように利用されてるだけなんじゃないのかい。元々拾いものなんだろ、捨て駒にするにはもってこいじゃないかい」

「シェイ様の捨て駒になれるのなら、喜んでなりますよ」

 大剣で防ぎきれなかった一閃が、ひとつ、またひとつとワシの肌に赤い線を刻みつける。

「そんなに拾ってくれた神が大事かい! 生き方を(すぼ)めるような視野の狭い神がっ!」

「捨てた神を恨むよりは、拾ってくれた神に報いる方が健全ですよ。拾われなかったらそのまま潰える命でしたからね!」

 二本の短剣で合わせた突きを大剣で防いだんだけど、勢いが強く後方へと押し退()けられちまう。くっ、もう背中と壁が近いじゃないかい。

「その神の為なら、他の命を踏み散らしても構わないってのかい」

「全てはシェイ様の望むままに。元より人は、万人と仲良くなれるようには出来ていないのですから!」

 気迫のこもった突きがワシの胸部を目指して迫ってくる。

「わかった口を利くんじゃないよ小娘がっ!」

 やっと攻撃に意識を傾けすぎた一撃がとんできてくれたよ。身を屈めて躱しながら両足をぶった切る勢いで横薙ぎを放つ。

「威力は凄いけど、遅すぎですよ」

 狙いを定めていた細い両足が宙に浮く。渾身の横薙ぎが空を切る。

 ああ、長かった。やっと、無防備な状況を作り出せた。

 大振りの反動を利用した回し蹴りが、今度こそ少女のボディを捉えた。

「が……はっ」

 吐血(とけつ)を撒き散らし、床材を破壊しながらゴロゴロと吹き飛ばされる少女。大剣の重さと遠心力を利用した回し蹴りだ。ただで済むはずがないよ。

 仰向けに床へめり込み、荒い呼吸をする少女。激しく床を壊しながら転げ回った衝撃で所々衣服が破れ、命の赤に染まっている。

 大したもんだよ。この状況で片方とはいえ、武器を手放さない執念はさ。

「とはいえこうも苦戦するとはね。魔王シェイに対する崇拝心(すうはいしん)には恐れ入るね」

 身を引きずって倒れる少女の傍に立つ。息絶え絶えで傷だらけ。まともにボディに入ったから骨や内臓も傷ついてそうだよ。

 このまま放っておいたら死んじまうだろうね。この若さでこれだけ強くなったんだ。このまま死なすには惜しいよ。

「さて、交渉といこうかい。負けを認めて大人しくするならワシのポーションを……」

 言葉の途中で少女は、目を赤くギラめかせて右の短剣を強く握った。

「あぁぁぁあっ……ぁ」

 叫びながら突き伸ばしてくる短剣を横から蹴り弾き、大剣で少女の身体を床へと突き刺した。

「命を粗末にするんじゃないよ。ワシは神じゃないからね。捨てようとする命は拾えないんだよ」

 どうしてみんなこうも命を捨てたがるんだろうね。

 ふと脳裏に過ったのは、コレまでに戦ってきたタカハシ家の二人だったよ。

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