410 知らない事
「見下してんじゃねぇぞコラァ!」
尻餅ついた状態で雷魔法を放つ。触れれば痺れて動けなくなる。対処出来るもんならしてきやがれ。
「この程度とは。ボクも舐められたもんだ」
コイツ、文句を言いながら棍を振り回す事で雷を逸らしやがった。
「どんな凄腕の魔法使いかと思ったんだけどね。やはり魔法使いの域を出ない。シェイ様の方が数段強い」
ふざけた事を抜かしながら一足飛びに棍で突いてきやがる。氷の壁を張って防ぐと、棍があたった所にビリビリと雷が流れやがった。
こいつ、雷属性を付与した棍で雷魔法を逸らす道を作りやがったな。若ぇのなんっつぅセンスしてやがんだ。
氷壁が攻撃を防いでる内に体勢を立て直して距離を取る。大した時間も稼げないまま、炎を纏った棍で氷壁が打ち砕かれちまったが、息を整えるぐらいは出来たぜ。
盲信者ってのは厄介でしょうがねぇ。何に盲信してんのかは知ったこっちゃねぇし知る気もねえが、対象の為なら命を捨てて強くなりやがる。
「けっ、殺すには惜しい腕前してんじゃねぇか。味方だったらどんだけ頼りになった事か」
「悪いが弱者に媚びを売るつもりはなくてね。接近されたら苦しいんだろ。次に間合いに入ったら逃がさないぜ」
紫の瞳が怪しく光る。腰を低く構え、跳び込む体勢には油断の欠片もねぇ。おまけに風も感じやがる。纏う事でスピードを上げてんな。
魔法特化のオレに対する当てつけか。確かに魔法も体術も鍛えたお前さんは遠近対応可能だろうな。オレは近寄られたら為す術なんてねぇ。
特化型は短所を突かれると勝ち目がなくなっちまう。だったらどこに勝ち目を作るか……簡単だ。短所を攻められる前に長所を押し付ければいい。
「来いよっ! ファイアボール!」
牽制の火球を放ったのを皮切りに敵が跳び込んできた。姿勢を低くして火球を潜りながら突きを放ってくる。
速ぇけど想像通りだ。棍がオレに届くかどうかの手前辺りで厚めの氷を張る。
「おいおい。魔法使い様は壁を張るしか芸がないのか。時間稼ぎにもなんねぇぜ」
自信満々の嗜虐的な笑みを浮かべながら、棍に炎を纏わせる。その様は猪突猛進。ただひたすら前方だけを見て、立ちはだかる壁なんて突き破って敵へと直進する猛獣。
「粋がんのもいいけどよぉ、後ろもちったぁ気をつけた方がいいぜ」
「後ろ? なっ!」
気づいたな。今回使ったのは氷壁ではなく、氷牢。後方の氷はやや薄めに作ってあるぜ。
「いや、囲んだからなんだってん……」
「ボムズ」
言葉を遮って爆発魔法を放つ。爆破ってヤツは開け広げられた場所で放つより、囲まれた場所で放つ方が威力の逃げ場がなくなって火力が上がんだ。
まぁ巻き添え食らわないようにオレから見て奥の方の氷は薄く作ってあるがな。
敵が強いと手加減できなくて困るぜ。最大火力で圧倒せざるを得ない。
黒煙でモクモクとしている薄暗い廊下へ向かって、杖を翳す。
「……ぅぉおおおおおおおっ!」
黒煙を突き破り、雄叫びを上げながら傷だらけの少年が鬼気迫る勢いで突進を仕掛けてくる。
バカがっ。倒れて身体を休めてりゃよかったのによぉ。
「インフィルノ」
「おおおおおおっ! シェイ様ぁぁぁぁあ!」
翳してあった杖の先端から豪炎を放ち、迫り来る少年を瞬く間に焼き尽くす。
「こんだけ火力出しても城には焦げひとつつかねぇとはな。残ってるのなんて、黒炭がひとつだけじゃねぇか」
まだまだ発展途上の強さっだたのによぉ。命をムダに済んじゃねぇよバーカ。
「やっぱ、敵の事情なんざ聞かねぇ方がいいな」
ジャス辺りは下手にお喋りして心に傷を負いそうで怖ぇわ。
敵のいなくなった廊下を進みながら思ったぜ。




