408 常闇城の洗礼
足場の悪い雪道と寒さ、加えて襲いかかってくる様々な魔物達に体力を奪われながらも、ボクたちは漆黒の常闇城へと辿り着いた。
大きく黒い門はボクたちに挑戦状を叩きつけるかのように空いており、通路の暗さも相まって不気味さを感じさせられる。
前もって話し合ったとおりにボクたち勇者パーティが魔王シェイの討伐を目指し、残りの救出班が人質の解放へと向かうべく別れた。
嫌に静かで暗い木製の板張り通路を歩いて進む。入城してからは不思議と魔物と出くわしていなかった。
「やっぱ慣れ親しんだメンバーってのはいいな。辺に気負わなくて……ん?」
ワイズが気の抜けた会話をしている途中で、何かがプツンと切れた音がした。同時に壁から矢が迫ってくる。
「なぁ!」
「危ない」
驚いて硬直しているワイズの矢面に立ち、剣で矢を叩き切る。
「気を引き締めなワイズ、一息入れてる暇なんてなさそうさね」
「みてぇだな。随分と殺意の高い罠を張ってくれるじゃないの」
クミンが発破をかけ、ワイズが気を引き締める。どうやら道中も油断できそうにない。
「ねぇアクア。常闇城の情報ないの?」
エリスが気を張り詰めながら問うと、アクアは口元に指を当てながらうーんと天井を仰ぐ。
「詳しくは知らないんだけど、なんとなく想像はついたかな。罠満載の忍者屋敷みたいな感じかも」
アクアは時折変な単語を使うが、今回はなんとなく意味がわかりそうだ。
「みんな、気をつけて進もう。どこに何が仕掛けられていても対処できるようにするよ」
と気を張ったはいいものの、想定外の仕掛けの数々でボクたちはタジタジになってしまう。
「何この大部屋。時空が歪んでるように傾いてるんだけど」
「っていうか、部屋そのものが傾いた状態で作られてないか?」
や。
「行き止まりか。みんな引き返そう」
「ちょっと待ちなジャス。壁から風を感じるよ。んー……ここ、隠し扉があるじゃないかい」
とか。
「なんで城ん中に池があんだよ。しかもおあつらえ向きに木の板がプカプカ浮かんでるしよぉ」
「まさかこの上を駆け抜けて向かい側の床まで辿り着かなきゃいけないのかい」
なんかがあったり。
「この細い通路から先に進めそうね。みんな心してっ! 痛った」
「よく見たら通路の絵を描いた壁じゃないか。大丈夫かいエリス」
とまあ、これでもかって言うぐらい様々な仕掛けが用意されていた。
「シェイってば、遊んでるなぁ」
苦笑しながら呟いたアクアの一言が心情を物語っているようだった。
いや、勿論本気で殺意の高いトラップもあったさ。天井が落ちてきたり、遙か奈落へと続くような落とし穴だったり。
とにかく罠のオンパレードで辟易してきた頃だ。不思議な大部屋に辿り着いたのは。
四隅にロウソクが灯っており、部屋の中央にはメモ書きが記されていた。
「今度はなんだぁ。えっとぉ、汝進みたくば四隅の灯火を同時に消されよ。さすれば道は開かれん。かっ」
「同時って言うのが怖いねえ。ズレたらどうなるんだい」
「しかしボクたちは進まなければならない。魔王シェイの思惑に乗るのはおもしろくないが、やるしかないだろう」
「まったく。こうなったらとことん付き合ってやろうじゃないの」
ボクたちはテキトーに四隅へ別れる。アクアは、ややエリス寄りの場所に立っていた。
「みんな準備はいいな。カウント三で消すぞ。三、二、一」
同時に火を吹き消した瞬間、天井の一部が高速で落ちてきた。
「なっ!」
仲間の安否を確認しようにも、目に映るのは黒い壁ばかり。
まさか、押し潰されていいないだろうなっ!
「みんなっ、無事か!」
「こっちはなんともねぇ、けど」
「ワシも無事だよ。しかしこりゃ」
「アタシも平気よ。アクアも一緒」
返事が返ってきた事にホッとはしたが、見事に分断させられてしまった。
試しに剣で斬りつけてみるがビクともしない。
「ワイズ。壁を壊せないか?」
「ダメだ。穴を空けるどころか傷ひとつつきゃしねぇ」
「剣が通らないのが腹立たしいじゃないかい」
ワイズに続いてクミンもダメだったと告げる。
「と言う事は、この開けた道を進むしかないのか」
遮断されたと同時に天井から落ちてきたハシゴ。おそらく全員にそれぞれの通路が開かれているのだろう。
「しょうがないわね。先行ってるわよみんな。後で合流しましょ。行くわよアクア」
「粋な計らいをしてくれるじゃないかい。合流するまで死ぬんじゃないよ」
「ったく、魔法使いを孤立させんじゃねぇっての。厳しい戦いになるぜ」
「一人で進むしか、なさそうだね」
再会を胸に、覚悟を決めて進む事にした。




