403 防寒着を求めて
シャトー・ネージュに到着したはいいけど、みんな防寒着持ってなかったんだよね。
私はリュックの奥底に水色のポンチョ、白のコサック帽と青いマフラーを仕込んでたから万全だったよ。
でも他のみんなはそうじゃなかった。移動中に寒くなってきてからは魔法や着重ねでごまかしてたけど、そろそろ限界みたい。
だからジャスとワイズが偉い人たちとお話ししている間に、私はエリスとクミンと三人で防寒着を買いに出かけたの。
ロンギングの衛兵さんたちも各々で防寒着を調達するみたい。お任せして大丈夫だよね。
街を散策していると、ちらほら服屋さんを発見する。テキトーにお店に入っては動きやすくて温かい服を見繕う。
「おっ、コレなんて野性味があっていいんじゃないかい。かっこいいじゃないかい」
クミンは早々に、フォックス系魔物の毛皮で出来たコートを見つけ出した。フードに狐耳がついていて、とても温かそう。
対してエリスはなかなか気に入った服が見つからず、転々とは服屋をハシゴする事となる。
店員さんにいろんな服を勧められるんだけど、どれも微妙にしっくりこないみたい。
「エリスは優柔不断なのかい。服一つ選ぶのに時間がかかりすぎじゃないかい」
「クミンが早すぎるだけだと思うけど」
「そうかい? シャトー・ネージュを出たらもう着なさそうだろ。だったらこだわる理由もないじゃないかい」
クミンはバッサリしてるな。思わず笑みが乾いちゃったよ。とは言えただ待ってるだけなのも退屈だし、私もウィンドウショッピングを楽しもうかな。
買う気はないけどテキトーに服をとって着ているところを想像する。
この緑のコートはフォーレに似合いそうかな。ベージュのラビットコートなんかはエアが似合うかも……って、コレ。
不意に視界に入った防寒着を手に取って驚いた。クミンが後ろから覗き見してくる。
「なんだか毛色の違う防寒着じゃないかい。なんかこう、異国っぽいねえ」
「どうしてこんなところに、どてらが売ってるの?」
手に取ったどてらを正面に見ながら固まっていると、女性店員さんが声をかけてきた。
「そちらの商品、個性的でかわいいですよね。お客様には紺色が似合うと思いますよ。ご試着なさいますか?」
「結構です。けどこのデザインって流行ってるの?」
「知る人ぞ知る商品なんですよ。一部のコアなファンがいるぐらいには売れてますね」
「売れてるんだ」
イッコクではかなり斬新なデザインのはずなんだけど。
「売り出すきっかけとなったのが黒髪の名も知らぬ少女なんですよ。度々見かけるんですけど、いつもその見ない防寒着を着ていたんです」
「へー。奇抜な娘さんもいたもんだね」
「それで何度か見ている内にオーナーが惚れ込んじゃって、見よう見まねで完成させたのがそちらになります」
度々街中に出現してたんだね。どてらを着た黒髪の少女が。
「ありがとう。参考にさせてもらうね」
そういいながら手に持ったどてらを棚に戻す。店員さんが離れてから私は呟いた。
「シェイも意外とエンジョイしてるみたいだね。結構シャトー・ネージュに入り浸ってるのかな」
「な、その少女が魔王シェイなのかい」
驚くクミンに頷きを返したところで、エリスが黄緑のダッフルコートを購入すると決めたよ。




