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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第6章 本影のシェイ
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401 影からの要求

「その怖いのしまってくれないかな。ワタクシ、今日は戦いに来たわけじゃないの」

「おいおい、オレ達がこの機会をみすみす逃すと思ってんのか? 戦いには貪欲な方でねぇ、情報はいくらでも欲しいわけよ。とっ捕まえて洗いざらい喋ってもらうぜ」

「大人しく捕まるのなら危害は加えない。それとも一人でボクたちに勝つつもりかい」

 武器を構えず佇む姿にはそこはかとないプレッシャーを感じられる。胆力を見るにかなりの実力を持っているのだろう。現に一人でこの館に忍び込んだらしいからね。

 けどだからといって負ける気はしない。

「やめてよ。勇者相手に勝てるわけないでしょ。一応冒険者で言うならA級をサシで倒せるぐらいには強いんだけど、相手が悪すぎだね」

 妙にあっさりと自身が劣っている事を認めてくれる。なのに降伏する態度が見えないのが不気味だ。

「わかってんなら話は(はえ)ぇ。逃げれねぇように拘束だけはさせてもらうから、大人しくしとけよ」

「捕まってあげるとも言ってないよ。確かに格上、それも多勢に無勢じゃ勝ち目はない。けどね、死ならば諸共(もろとも)って言葉もあるんだよ」

 緊張を(はら)んだ笑みをはりつけ、オレンジの眼差しを光らせる。

「やめた方がいい。例え命懸けだとしても、ボクたちと差し違える事は不可能だ」

「旅は道連れとも言うかな。対象はあなたたちじゃなくて、この館の人たちだけどね」

 少女が近くにいたメイドに視線を向ける。

「もっと言うと、ワタクシが一人と思わない方がいいよ。シェイ様の奴隷部隊は忍ぶの得意なの。ワタクシに手を下した瞬間、ここで大量虐殺が起こる可能性だってあるんだから」

 軽口のように吐き出される脅し。周囲に警戒の網を張るも、誰かが潜んでいる気配は感じられない。けど直感が警鐘(けいしょう)を鳴らしている。いるぞ、と。

「物騒な物はしまって、ソファーに座った方がいいよ。まだ話は終わってないから」

 どうする。ハッタリとみて攻め込むべきか、素直に従うか……。

 ボクは剣を鞘に戻すと、勢いよくドスリと座った。不完全燃焼な気持ちを少しでも物にぶつけたいが為に。

「ジャス……まっ、その方が賢いんだろうな」

 ワイズも武器を納めると、両手を頭の後ろに組んでソファーに深く腰掛ける。

 ボクたちの様子に満足したのか、少女は胸の前で手をパンと叩いて仕切り直した。

「それじゃ、ワタクシ達の要求をするね。まず攫った子達だけど、二百人ぐらいいるからそれを踏まえて救出班を用意してね。聡明な貴族様達の手助けがないと不可能だから、しっかり連携してよ」

 あまりにも多い人質の数に、落ち着けた腰が浮きかけてしまった。目を剥くのは館の主も同様だった。

「もしも首を横に振ったらどうなるのかね?」

「常闇城はシェイ様の魔力で建ってるんだよね。だからシェイ様が倒されたら城は崩壊するよ。ワタクシ達が殺し回らなくっても、救出されなきゃ生き埋めだね。そうなると娘がどうなるかは、言う必要ないかな」

「……わかった」

「それと救出した子達を預かる孤児院なんかも用意してくれると嬉しいな。なかったらまた奴隷商に身売りするだけだろうけど、救出した子を奴隷にするとなるとかなり見聞(けんぶん)悪くなっちゃうよね」

 貴族をやるに当たって領民の関心は常に高くしておきたいもの。財政的に厳しくなるが、それをやらないと支持率が(いちじる)しく低下するぞと、そう脅しつけている。

 ましてや自分の娘だけ助けて他を見捨てるような行為をすれば反感は免れない。

「くっ……すぐに手配しよう」

 奥歯を噛みながら渋々了承をする。懐に受けるダメージの大きさを鑑みるに、気の毒だと思わざるを得ない。

「そんな暗い顔しないの。あなたは勇者を支援した貴族になるんだから。かなり(はく)がつくよ。それにあなた一人でやれなんて言ってないの。周りの善良な貴族を巻き込んで事業すればいいの。そうすれば、あなたはシャトー・ネージュ一の貴族になれるわ。ほら、いいことだらけ」

 果てしなく険しい茨の道を掲示し、その先に確かにある栄光を示唆(しさ)する。

 確かに道を歩ききれれば未来を掴めるかもしれないけど、あまりにも酷すぎる。

「なぜだ」

「なにが?」

「なぜそんな遠回りな道を用意するんだ。マリー派の貴族を手にかけなければ、そんな果てのない手間は必要なかっただろう」

 ボクが問い詰めると少女は、ガッカリしたような溜め息を吐き出した。

「それは、シェイ様との戦いが終わった後で、あなたたちが勝手に調べればいいよ。ワタクシだって慈善でやってるわけじゃないからね」

「市民の混乱だって引き起こしているんだぞ」

「その混乱を引き起こさなければ、変わらなきゃいけないものも変えれないんだよ。言いたい事は言ったからそろそろお(いとま)するね。それじゃまた、常闇城で会いましょ。勇者さん」

 少女は踵を返すと、避ける人々を気にもせずに堂々と歩いて出て行った。

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