399 影からの誘導
シャトー・ネージュに着いた翌日。伝手のある複数の貴族を頼ろうとしたが、どこもとりつく島がなかった。
邪険にされているわけではなく、どこも謎の暗殺者により当主および腹心を暗殺されていて、拠点として機能する状況じゃなくなっていた。
魔王シェイによる侵略の賜物……いや、ボクに対する妨害活動かもしれない。
ただ街に魔物が侵入した形跡はなく、人による手口だろうとどこも解釈を一致させていた。
時期と規模的にシェイの仕業のはずなのだが、人による暗殺となると首を傾げさせられる。
無関係の事象がたまたま重なったのだろうか。まさかシェイに崇拝する人間の仕業なんて事は。
さすがに考えづらいか。人質を取られて仕方なくと言うならまだしも、自分から魔王に力を貸す人間なんて倫理的にいないだろう。
人は魔物を本能的に嫌悪するものだから。
頼みの綱が全て切れてしまっていた事に嘆息し、街並みをワイズと共に歩く。期待外れの寒々しい結果が、気温以上に寒さを際立たせた。
「まさかマリーの伝手が全滅するとは。運悪く厄介な暗殺集団が暗躍してくれたものだ」
「おいおいジャス。暗殺集団と魔王シェイが別の事案だと考えてんのか?」
「どうだろうな。考えにくいと言うより、考えたくない気分だ」
何かの間違いだと信じたくて仕方がない。
「それよりもどうするワイズ」
「人海戦術で民間人から情報を聞き出す以外ないだろぉ。最悪シェイの居城がどこにあるのかわかれば攻める事も可能だぜ」
「地道かつ、危険な戦いになりそうだ。が、やむを得ないか」
魔王シェイはアクアが恐れるほどの強敵だ。出来る事なら少しでも情報が欲しかったのだが。
「浮かない顔してるのおにいさんたち。そんな顔してたら心まで寒くなっちゃうよ」
明るい声に視線を向けると、ショートの黒髪にオレンジの瞳を持った少女が微笑みを向けていた。黒のポンチョにオレンジのマフラーと暖かめな上半身に対し、ポンチョから伸びるのは生足で茶色いブーツを履いている。元気で若い下半身だ。
「そーなんだよお嬢ちゃん。景気の悪い話ばっかでお兄さん達参っちゃってさー。暖まる場所で一杯やってくれないかい。お酌してくれるなら奢るぜ」
ワイズが鼻の下を伸ばしながら馴れ馴れしく少女の肩に手を回し出す。一度自警団に捕まった方がいいのかもしれない。
「やだー。そんな場所に行かなくてもワタクシ、景気のいい話なら持ってるんだから。勇者さんの噂を聞きつけて、耳寄りな情報を持ってきたんだよ」
ボクたちを勇者と知って声をかけてきたのか。お近づきになるのが目的となると、情報の期待が薄いかもしれんな。
「どんな情報を持っているのかな」
ダメ元で聞いてみる。ダメだったら手短に済ませてしまおう。
「とある貴族の娘が常闇城に誘拐されたの。それで貴族の親が勇者さんの助けを求めてるんだ。なかなか大きくて影響力のある貴族さんだから、きっと助けになってくれるはずだよ」
なっ。
ワイズに視線を合わせると、真面目な顔で頷きが返ってきた。
とてもありがたい情報だが、タイミングがよすぎる。この少女は何者だ。
訝しげに少女を眺めるも、内心の読めない笑みだけが返ってくる。
「どうする勇者さん。すぐにでも案内できるけど」
両手を後ろに組んで顔を近づけながら、挑発するように聞いてきた。
「ありがたい。是非お願いするよ」
「了解。こっちだから着いてきてね」
手を振りながら駆け出す少女に、ボクたちは警戒心を高めながら着いていく事にした。




