396 せめてもの弔いを
常闇城には直接馬車を城内に停める場所が用意してある。運んできた子達を下ろして奥へと向かう。
木造風の廊下はろうそくで照らされているものの薄暗く、気温とは別の意味で寒気を感じさせられる。
怯えながらも先導されて歩いていた子供達だったが、鎧武者姿のリビングアーマーが歩いているのを見て遂に悲鳴を上げた。
「初めて見るときビックリしちゃうよね。こうおどろおどろしい感じが常闇城にマッチしてるっていうか。でも言う事聞いて大人しくしてたら襲ってこないから大丈夫だよ」
イツキが説明しながら手を振ると、鎧武者が手を振り返してくれた。敵意はない事を証明するも、やはり怯えてしまう。まぁムリもないが。
コレばかりは時間と共に慣れていってもらう他ない。
すれ違う魔物達に悲鳴を上げながらも、オレ達は一階の奥にある食堂を目指した。
途中から漂ってくる醤油の香りが、空いた腹を刺激してくる。移動している子供達のなかにはよだれを垂らすものまで現れている。
無骨なテーブルと椅子が並べられた食堂では、奴隷メイド部隊が食事を作っていた。
「おかえりみんな。今回の子達もお腹空いてるんだろ。色々作ってあるからまずは腹ごしらえしちゃいな」
メイド部隊と名称しているが着ているのは皆着物。いっそ仲居部隊と呼んだ方がしっくりきそうだ。
衰弱している子はもちろんの事、元気な子も碌に食事を取れていない。疲労具合によって形状の違う食事を提供し、とにかく精をつけてもらう。
特に衰弱している子はこちらで食べさせてあげなければいけないほどだ。
オレ達は他の奴隷部隊に食事を任せ、動かなくなってしまった子達の弔いへと向かう。
雪の積もる城外へと出て、静かに冷たい作業を熟す。
「わかってはいましたが、何度やってもこの瞬間は堪えます」
「ヘタすりゃボクらも四年前、こうやって力尽きてた可能性もあったんだよな」
弔いはオレ達奴隷戦闘部隊の役目だ。死に一番近い場所にいるからこそ、こういったことに適している。
生きたかった命達だろうか。それとも諦めて死を望んでいただろうか。羨望も怨嗟も混じり合って朽ち果てた成れの果て。
望みを叶える事は出来ないがせめて、恨みだけは背負ってやろう。世知辛いイッコクの理を打ち砕くその日まで。
全員を個別の棺桶に寝かせて、大きく掘った穴の中にまとめる。
「エイジ、頼む」
エイジは頷くと、火炎魔法を放って火葬をした。高い火力で一瞬にして焼き尽くし、煙と共に魂が夜空へと昇りゆくようだ。地には骨だけが残っている。
骨を埋め、日付だけをつけた墓標を立てて手を合わす。
「さて、残った子達には常闇城の日常に慣れてもらわないといけないな」
「大丈夫でしょ。うちの奴隷部隊はみんな優秀だもん。それに常闇城の生活に慣れた先輩達が暮らし方を教えていくだろうからまた騒がしくなるだろうね」
「預かる子が増えているのに、なぜか一向にパンクしないんですよね」
「教えられる側が教える側に回ってるおかげだろ。聞き分けいい子たちで助かるよ」
常闇城の一部はある種の孤児院と化している。いずれは勇者達が踏み入り、オレ達が攫った子達全員を救出するだろう。
ソレまでは元気に、けど節度も持って生きてもらわなければいけない。
「まぁ節度の方は、魔物様のおかげでどうにかなるだろう」
常闇城はシェイ様の魔王城。故に子を預かっている区域以外にはシェイ様直属の魔物も闊歩している。これ以上の抑止力はあるまい。
こうしてオレ達は、ブラックな奴隷商やマリー派貴族を襲いながら、勇者の到着を待つのだった。




