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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第6章 本影のシェイ
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394 今までを捨ててのこれから

「コレで全員か」

 窓ガラスこそ襲撃で破れているが、奴隷商のロビーは小綺麗に整っていていい空間だった。上客もてなすからこそ、出入り口と応接室は整っていたのだろう。

 今は奴隷商関係者の返り血で汚れきってしまっているがな。それでも明るいのは幸いだ。

 ロビーには生きている奴隷全員を集めてある。恐怖に怯えている子から、死の淵に立たされている痩せ細って傷だらけの子まで。

「わかってはいたが、手遅れな奴隷も多いな」

 ウメが俯きながら、声に憂いを含んで漏らす。

「手遅れが増えちまう前に移動しねぇとな。おいテメェら。これからボクたちと共に来てもらうぞ」

 元々予定に決めていた事もあり、早々にエイジが奴隷達に声をかけた。

 比較的元気な奴隷達が動揺し、その内一人が声を上げた。

「あのっ、ぼくたちを帰してくれるんじゃないの?」

 これで帰る事が出来る、と思っていたんだろう。奴隷達を攫った奴隷商(れんちゅう)を斬り倒す姿が正義のヒーローにでも見えたのかもしれない。大きな間違いだけどな。

「特にそんなつもりはない。オレ達が奴隷商を壊滅させたのは、これ以上コイツらの手で被害者を増やさない為だ。もう既に被害を受けているものを助けるつもりはない」

 きっぱりと言い放つと、一瞬奴隷達は怯んだ。けども不満は湧いて出るようで、次第に文句をぶつけ出す。

「ふざけんなっ! ぼくたちを見殺しにするつもりかっ!」

「帰してよっ! わたしたちを帰してよっ!」

「こんなことをまでして見捨てるんなら最初からやるなっ!」

 涙目になりながら言いたい放題言っているのは、比較的攫われて間もない奴隷達だろう。文句を言う元気が残っているのが証拠だ。

 特に理解してもらうつもりもないし説得も面倒そうだと思っていると、イツキが一歩前に出た。

「別に帰りたいなら帰してあげてもいいよ」

「えっ?」

 手のひらを返す発言に驚くと、文句を言っていた奴隷達に希望が宿る。

「ただし帰る居場所があって、その居場所がここシェトー・ネージュの中にあるならだけどね」

 イツキの条件に言葉を詰まらせる奴隷達。希望の光がどうなったかは、淀んで俯いた瞳が如実に語っていた。

 この奴隷商に攫われた奴隷の九割が、他国から攫われてきた亜人の子供だ。場合によっては小さな集落ごと壊滅させられて攫われた子もいる。

 帰りたいと言っておきながら、帰る居場所がない子が殆どだ。

「ワタクシたちも暇だったら帰してあげてもよかったんだけどね、やる事多くて遠出なんてしてられないんだ」

「でも……」

「仮にワタクシ達が奴隷商を壊滅させなくっても、あなたたちに未来なんてなかったよ。タチの悪いご主人様に買われて痛い目見ながら死んだ方がマシな人生を歩むか、売れ残って痛めつけながら飢え死ぬかのどっちかだよ」

 死に際にいる奴隷に視線を向けながらイツキが説明すると、元気な奴隷達がヒっと息を呑んだ。

 雰囲気に飲まれただけかも知れないが、状況がわかったようでなによりだ。

「それで、アナタはどうする? その気になれば帰れそうだけど」

 イツキは不意に、一番整っている奴隷の娘に問いかける。

 周りの奴隷達が状況に翻弄(ほんろう)されている中、一人だけ静かに状況を見守っていた。

「わたくしも共に参りますわ。今帰っても、家に迷惑がかかりそうだもの」

 考えた末の回答だろう。胸中など知るよしもない。まとまったのならソレでよしだ。

 ボクたちは周囲に潜んでいたシェイ様の奴隷部隊と連携して、シャトー・ネージュからの脱出を図った。

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