391 奴隷達から見たタカハシ家の評価
シェイ様の命を受けたオレは、情報を共有すべく軍事会議室の畳に座す。
周囲には既に三人の奴隷戦闘仲間が座って待っていた。
「おかえりアキ。シェイ様は元気だった?」
黒く染めたショートの髪にオレンジの瞳をした少女が明るく話しかけてくる。
「イツキ、少し落ち込んでおられたぞ。デッド様が戦死された」
伝えると全員が息を呑んで驚いた。
「デッド様がお亡くなりに……もうデッド様に絡んで楽しそうに癒やされているシェイ様を見られないのですね」
視線を彷徨わせながらショックを隠しきれないのはウメだ。長身で姿勢が整っている少女で、黒く染めたポニーテールに赤い瞳をしている。
「アクア様の方はどうなったんだ?」
背が高くガッツリした少年がもう一つの懸念事項を口にした。黒く染めた角刈りに紫の瞳が特徴だ。
「アクア様はご存命だエイジ。おかげでシェイ様はイキイキともしておられた」
「よかった。アクア様が生きててくれたなら、シェイ様も安心だね」
イツキが胸を撫で下ろし、ウメとエイジが同意の頷きを示す。シェイ様にとってアクア様は癒やしであり希望であり、目標でもある。
アクア様以上にシェイ様を満たしてくれる方は他にいない。グラス様でさえ、生きがいになるには要素が足りない。
「そうそう。シェイ様は新しい刀を持っておられたぞ。おそらくはグラス様が作った傑作だろう」
「いいなー。羨ましい。それ以上にシェイ様なら華麗に使いこなしそうだね」
「一度太刀筋を見てみたいものです」
イツキとウメも楽しそうだ。グラス様作の武器に憧れを抱く気持ちもわかるが、それ以上にシェイ様が使いこなす姿にトキメキを感じてしまう。
「って事はアキ、今回は明るい話だけで終わったんだな?」
おっと。エイジが切り替えてくれなかったら緩い話だけで会議を終わらせてしまっていた。
「大事な話を忘れていた。次の勇者の標的はシェイ様だ」
三人して目を丸くさせるが、次第に口元で笑みを作る。
「そっか。ようやく出番が来るんだね。退屈な相手ばかりだったけど、ようやくシェイ様達に鍛えてもらったワタクシ達の実直を発揮できる」
「奴隷として囚われ、冷たい地下牢で朽ち果てるはずだった命。そんなドン底からワタシたちを拾って鍛え上げてくれた。ようやく真の意味で強くなったと証明するチャンスがきましたね」
「まっ、特訓自体は血反吐を吐くようなキチぃもんだったけどな。フォーレの不味い栄養食も、エアのとんでもない鍛錬方も思い出すには苦すぎるわ」
「けども感謝はしているんだろ、エイジ」
問いかけると、自信に溢れた笑顔が返ってきた。
シェイ様を筆頭に厳しく鍛え上げてくれたグラス様。優しく気遣ってくれたアクア様。毒を吐きつつもどことなく気をかけてくれたデッド様。奇抜な方法で肉体を追い込んでくれたエア。食事療法や斬新なアドバイスを送ってくれたフォーレ。気に食わないその他二人。
総大将としてどこまでも果てしない圧力のチェル様。そして偉大なる父上コーイチ……様。
タカハシ家の皆様のおかげで、オレ達奴隷部隊は各々に力をつける事が出来た。
四年……ようやく恩を返す機会に恵まれる。
「とはいえ勇者の到着まではまだまだ時間がかかる。その間はマリー派の貴族とブラックな奴隷商を潰し回るぞ」
「今までとやること変わんないけど、最後のウォーミングアップって考えればよしかな」
「諜報奴隷部隊からリストは上がっています。すぐにでも向かえます」
「メイド奴隷部隊からはまた小言を言われちまうだろうけどな。一時保護奴隷をこれ以上増やさないでちょうだい! ってな」
エイジ、気合いが入ったところを挫くのはやめてほしいぞ。締まらないから。
「奴隷商崩壊させるたびに一時保護奴隷増えちゃうもんね。世話する人数むちゃくちゃ増えちゃってるから頭上がんないんだよね」
イツキは苦笑いをしたのだった。




