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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第5章 毒牙のデッド
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381 支える者と立たせる者

 ラベンダーの落ち着く香りに包まれて眠っていると、おでこに冷たくやわらかいもんが触れた。

 目を開いてみると、チェルが微笑みながら俺を見下ろしてたぜ。赤い瞳がちょっくら憂いを帯びてんな。隣で椅子に座って、左手を俺のおでこに伸ばしてらぁ。

「よぉチェル。しけた顔してんじゃねぇか」

 寝る前まではフォーレがいたと思ったんだがな。いつの間にか交代してたか。

「あなたが情けなく寝込んでいるからでしょうに。けど、少し顔はよくなったわね」

「なんでみんなして顔色の事を顔って言うのかねぇ」

「ツッコミを返せる気力が戻ってきたなら上出来よ。ヴェルダネスへ散歩にでましょう。気分転換が必要だわ」

 優しくおでこを撫でてくれるじゃねぇか。まるで死ぬ間際の人間を労るように。

「デートの誘いか。ありがてぇけどよぉ、俺はまだピンピンしてるぜ」

 ベッドから身体を起こしながら、心配しないように元気を出して言い切ってやる。

「頼もしいわねコーイチ。身動きしやすいように着替えをしましょうか。直射日光は刺激が強いから日傘もいりそうね。使いやすい杖はあったかしら」

 ちょっと待て。誰と散歩に行く気だよチェルは。

「私の最弱の魔王は誰よりも弱いもの。そんなコーイチが魂一つ抜けたように弱った挙げ句、いたたまれないほどの空元気を見せられたら万全の態勢を取りたくもなってよ」

「大切にされてる、って思う事にしとくわ。行こうぜ」

 俺はホントに着替えさせられた挙げ句、杖を片手に出かける事になった。日傘は隣で歩くチェルが差してくれてるぜ……なんなんこれ?

 時間にしてはおやつ時かな。小腹も空いてねーけども丁度いい明るさしてらぁ。

 ヴェルダネスの村人からはかーなーりー遠巻きに心配されるし。大きく開けてしまった口を両手で押さえて後退るおばちゃんを何人見たか。

 普段気さくに話しかけてくれるクセによぉ。

 デッドが死んだ事はみんな知ってるぜ。ヴェルダネスでは一大ニュースだかんな。

 試しに笑顔で手を振ってみたら泣き崩れられちまったぞ。

「やめなさいコーイチ。見るだけで涙が溢れてきそうよ」

 などとチェルから訳のわからん注意をされてしまう始末だ。

 小さめに公園に辿り着き、チェルと二人ベンチに座って休憩する。

 チェルが用意してくれた水筒の御茶を一杯飲んで息を吐いた。

 砂場には四人の子供が固まって遊んでるぜ。

「子供ってのは無邪気なもんだな。砂いじって楽しんでらぁ」

「遊びたいなら混ざってきてもよくてよ」

「そこまでガキじゃねぇよ。けど砂を使って作りたい形を作る。大人になって忘れちまった面白さだわな」

「大人だって思い出す面白さじゃなくって。自分の子供に遊ぶ面白さを伝えるのは親の役割だもの」

 子供と一緒に、か。

「デッドとも砂遊び、しとくだたかねぇ」

 ちょっと考えてみたけど、それこそ悪態つかれそうだわ。

 砂場の方を眺めていたら、チェルが俺の手を握ってきた。

「想像よりも、ツラい戦いになってしまったのね」

「わかっちゃいたし、覚悟もしてたんだけどな。キチぃ。これからも世話になっかもしんねぇけど、潰れる気はねぇかんな」

「コーイチが潰れてしまったら、私まで潰れてしまってよ」

「ははっ、だったら気張んねぇと」

 肉親の死ってやつはさぁ、徐々に黒い世界に侵食されるような感覚だったんだよな。感情がなくなるのに泣けてくるみたいな、よくわからん感じ。

 体験したくなくても、いずれは体験しなきゃいけない。

 俺はそれを、最低後六回は覚悟しないといけない。

「ちょっとコーイチ。公園でラブラブしてるフリしながら衰えるのはやめなさいよ!」

 もの思いに耽っていたら、いつのまにか正面にススキが立っていたぜ。いきなり叫ばれちまった。

「生きてるミイラみたいな雰囲気じゃない。そんな姿してたら、デッドに心配されちゃうよ」

 心配される? デッドに、俺が?

「そんなしけたツラしてんじぇねぇ! ジジイのせいで死ぬほど僕は素直じゃねぇかんな!」

 ススキがデッドの仕草を真似しながら、きっぱりと言い切った。

「似てんじゃねぇか」

「ありがと。デッドって捻くれてるけど意外と優しいからね。だから、コーイチがデッドを悪者にしないであげてよ。あたしまで悲しくなっちゃうから」

 少しだけ、肩の荷が下りたように感じられた。

「やだわ。ススキに借りが一つできてしまったじゃない。言いつけてくれればコーイチを一日貸し出してあげてよくてよ」

 おいおいチェル。人を物みたいに言ってくれるじゃねぇか。ススキの顔が真っ赤になっちまってるぞ。

 ……真っ赤? 何を想像した?

「いっ、いらないわよそんなの!」

「ふふっ。ウブな娘ね。けど本気だから、気が向いたらいつでもいいなさいな」

 対してチェルは余裕の笑みだ事で。少し機嫌もよくなったかな。

「そろそろ帰りましょうか。今日はまだムリしない方がいいもの。じゃあススキ、失礼するわ」

 チェルに連れられる形で家へと帰っていったぜ。

 デッドの亡霊も、すっぱり見えなくなった。

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