380 理想の順番
バチンっ!
二階建て一軒家、タカハシ家の実家。帰ってきて早々に自分は、ヴァリーに思いっきり頬を叩かれました。オレンジの瞳に涙を溜めながら、キッと睨み付けています。
「傍にいたならどうしてデッドを助けなかったのよー! この薄情者ー! シェイが死んじゃえばよかったんだー!」
ヴァリーは言うだけ言って、隣の部屋へ走り去って行きました。
頬というか、首が痛いですね。意外に強く、捻じ切れてしまうかと思いましたよ。
「薄情者ですか。案外間違っていないのかもしれませんね」
頬を手で擦りながら、思います。確かに、助ける気は全くなかったなと。
「気に病むことはないさシェイ。ミーを差し置いて少女とイチャイチャするデッドが見果てたヤローなのさ。見捨てるのも当然さ」
背中から不快な手が自分の肩を触りました。すかさずボディに肘打ちを放って撃沈させます。
見境ない種馬に、デッドの純愛が汚されるのはとてもとても癪です。自分だってちゃんとした恋愛は好きなのですから。
「その話は別にして、直接宣戦布告したんだって? それはウチ、ズルいと思うんだ」
「エアの言うとおりだシェイ。俺も早く力を試したい。そんな手を使われては敵わん。そもそもシェイはトリを飾る実力だろうが」
エアが文句を言うと、グラスが追い打ちをかけてきました。
「自分にトリは務まりませんよ。それこそグラスの役目だと思っていますよ」
グラスほど地力を持っているのは他にいないでしょう。
「ちょっと意外だね。シェイもグラスも、最期の砦になりたいと思ってたんだけど」
「自分は早めを望んでいました。願わくば一番手を」
「俺もシェイと同じだ」
エアの問いに自分とグラスが答えました。同じ考えでしたか。
「そういうエアはどうなのですか」
「ウチは中盤あたりかな。最初も最後も荷が重いからね」
荷が重いなんてエアらしくない言いよう……いや、身軽に戦いたいと考えればある意味らしいですね。
「ミーが早々と儚くなってしまってはイッコク中に女性が悲しんでしまうだろう。だからミーには最後が相応しいと思うのだよ」
聞いてもいないのにバカがバカな回答を出しました。コイツだけは早めに滅した方がいいでしょう。順番を譲る気はありませんが。
「最後を飾るのはヴァリーちゃんだよー。一番長くパパと暮らすんだからー」
ヴァリーが姿を見せずに隣の部屋からドア越しに叫びました。ヴァリーが最後も想像出来ませんね。実力を考えると、どうしても劣っているように思えますし。
「なんだかおもしろい話をしてるねぇ」
フォーレが微笑みながら二階から下りてきます。
「折角ですので聞きしますが、フォーレは何番手をお望みで?」
残っているメンバーで聞いていないのはフォーレだけですからね。ある意味一番予想がし辛いですし。
「アタイはできるだけ早い方がよかったなぁ。力量だけでみたら一番弱いからねぇ」
抜けた表情をしながら、とんでもないことを吐かしてくれます。
自分たちの最後の模擬戦。本気で戦って全勝を掠め取ったのはどこのどいつでしたか。
「みんなそんなに見つめないでぇ。ホントの事を言っただけだよぉ。ただちょっと事情が変わったからぁ、最後の方がいいなぁ。具体的には七番手ぇ」
らしいような、そうでもないような。判断に困る順番ですね。
「して、その事情とはなんでしょうか」
「デッドが死んだでしょぉ。そのショックでおとーのメンタルが想像以上にボロボロになっちゃったんだよねぇ」
なっ!
にへらと力なく微笑みながら告げられた内容に、自分を含む全員に衝撃が走りました。
「今ねぇ、落ち着く薬を飲んでもらってぇ、部屋を心地よい香りで満たしてから休んでもらってるのぉ。最近うなされてて眠れてねかったからねぇ。ようやく寝付いてくれたぁ。おとーの介護ぉ……介助も大変だよぉ」
さらっと介護と言いましたね。それほど父上は厄介な状態と言う事ですか。
「だからギリギリまでおとーのお世話をしたいのぉ。でも最後は荷が重いからぁ、七番手ぇ」
薬学的な意味で父上を支えられるのはフォーレしかいません。フォーレの順番だけは調整した方がよいでしょう。
「フォーレ、父上をお願いします」
「言われるまでもないよぉ」
フォーレの微笑みはどこか、疲れたように見えました。




