378 シェイの期待
シェイと場所を移して、地下鉄に続く洞窟の前までやってきた。
「随分と長い間ヴェルクベルクに滞在してしまいました。自分はいったん父上達の元へ帰ります。アクアも来ますか?」
お父さん達に会いたい気持ちもあるけど、今回は時間が取れないんだよね。シェイもわかって言ってるんだろうけども。
「やめとく。けどフォーレには助かったよ、私は元気に楽しんでるよって伝えてほしいな」
「承知しました」
シェイが身を翻して地下鉄へ向かおうとしたんだけど、聞き忘れていたことを思い出した。
「ところでさ、なんでジャスたちに宣戦布告したの?」
ピタリと止まる足。
「私たちの戦う順番は勇者一行に任せるって、みんなで決めたよね」
「父上が好きだったアクションゲームになぞらえて、8ボスを選んで攻略するように仕向けた自分たちのルールですか」
特にドット絵のやつが好きだったって熱弁してたゲームだよね。私たちも丁度八兄弟だったし。それで全員倒したら、私たちの実家である魔王城タカハシで最終決戦をする。
あれ? それだと実家の戦力がかなり薄くなっちゃう気が……
「別にルールを破ったつもりはありませんよ。催促はしましたけど、決めるのはあくまで勇者側だとも念を押しましたし」
「けどしっかり煽ってた。あの言い方だと選んじゃうよ」
シェイは振り返ると、黒い瞳をまっすぐ見つめながら言い放った。
「単に待ちきれなくなっただけです。自分の出番を」
「だからってシェイを選ばせるのはよくないと思うな。速いし強いし、アイコンとかあったら髪の毛が上から飛び出てるくらい別格だと思うもん」
「自分はクイ○クマンか何かですか」
嘆息を吐かれちゃった。実際強いと思うんだけどな。
「あぁ、一つ思い出しました。アクアはデッドの毒に犯されましたが、アレは優しいデッドからの忠告だと思った方がいいですよ」
あれすっごく苦しかったんだけど。死ぬかと思ったし。
「勇者と一緒に、自分たちと戦場で相対すると否応なしに巻き込まれるぞ。とデッドはそう教えたのです」
まさか。怒り任せに私を処理しようとしたんでしょ。って。
「ちょっと待って。そう言うって事は、まさかシェイも?」
「自分は巻き込むつもりはありませんよ。手を出されたら話は変わりますがね」
穏やかに、だけど挑戦的な熱意を込めて微笑んだ。
「よかった。でも私が戦ったところでシェイに勝てるだなんて思えないけどね。模擬戦でも全敗だったし」
ヴェルダネスにいた頃は戦闘訓練に一対一の模擬戦もたくさんしたからね。
「果たしてどうでしょうかね。実戦では真剣さも集中力も違うでしょうから」
「もー、期待しすぎだって」
笑える冗談だよ。私がシェイの力量差だよ。足下にも及ばないって。
「では今度こそ帰ります。充分に離れたらメッセージを送りますので、出入り口の破壊を頼みます」
電車どころか通路その物が見つかったらまずい代物だからね。
「わかってる。誰かに悪用されるわけにはいかないもんね。じゃあね」
私が手を振ると、シェイは歩きながら背を向けて手を振り返したよ。
シェイが地下鉄へと消えて、たっぷり時間が経ってから呼びかける。
「私の用事は終わったから一緒にお出かけしようよ、エリス」
木々の合間に向かって呼びかけると、エリスが諦めたように出てきた。って、アイポも一緒にいるのはどうしてだろ。
エリスは目を瞑り、眉間に皺を寄せながら近寄ってきた。歩くの器用だね。
「ねぇ、いつからわかってたの?」
「村を出る前から。シェイも知ってたよ」
エリスが尾行下手なのもあるけど、上手すぎるシェイの尾行を知っていたのも大きいかな。
「あたしに聞かれててよかったの? かなり重要な話も混じってた気がするけど」
「些細な問題だと思うな。それよりお腹すいたね。ドワーフの料理っておいしいのかな?」
「それよりお腹すいたね。じゃないわよバカっ!」
相変わらずエリスは感情全開でおもしろいな。
「ところでアイポはどうして?」
「アイポに見つかったのと、庇ってくれる保護者を探さなきゃいけないでしょうに。ペトラしか知り合いいないから世話してくれるといいけどねっ!」
なんか投げやり気味に吐き捨てられちゃった。
もしもデッドとの子供がホントに出来ちゃってたら大変だもんね。アイポの両親については知らないからなんとも言えないけれども、味方は多い方がよさそう。
私はシェイのメッセージを待ってから地下鉄への入り口を崩壊させ、みんなとヴェルクベルクに戻ったよ。




