376 身内の恋バナ
「着きました。ここです」
シェイの先導で辿り着いた場所は、森に隠れるように作られた洞窟の、崩れた入り口だった。
「見事に崩れてるけど、ここなんだったの?」
「蠢きの洞窟の最奥へと続く抜け道でした。言い換えるなら、デッドの棺桶です」
デッドってば、こんな場所にショートカットを作ってたんだ。
なんとなくシェイと二人して手を合わせ、黙祷を捧げておく。
「それでアクア、何から聞きたいですか?」
「んー……シェイはさ、いつからヴェルクベルクにいたの?」
「アクアから勇者の目的地を聞き、デッドが本格的にヴェルクベルクに待機したときからですよ」
大雑把に計算して、二週間くらい前からって事かな。
「だいぶ長い間潜んでたね」
「デッドの動向が気になりましたから。ただまさか、常時甘酸っぱい恋愛を見せつけられるとは思いませんでしたが」
口調はうんざりしてるけど、口元が楽しそうに弧を描いてる。正直その話、私も気になる。
「ひょっとして、ピンクい髪のドワーフの娘?」
コクリと頷くシェイ。
「名前はアイポ。プレゼントにお手製のフレイルを貰ったときのデッドはとても満更ではなかったです」
「いきなりフレイルなんて使い始めてたからなんの気まぐれなんだろって思ってたけど、そういうことだったんだね。ふーん」
そっかそっか。ふーん。って事は、使い慣れない武器を必死に使えるように仕上げたって事だよね。
「デッドも隅に置けないなー。そんな事情があったならフレイル壊されてぶち切れもしちゃうよね」
デッドってばかなり怒ってたもんね。そんでもって……恐れてた?
「端から見てデッドとアイポは相思相愛でしたよ。けどデッドは好かれている自信がなかったようで、後ろを向きがちでしたね」
やれやれと言ったようにシェイが溜め息を吐いた。
「デッドってば意外とシャイなんだね」
「大方、真の姿を見られたら怯えられると思ったのでしょうね。そんな小さい理由で怖じ気づくようなアイポじゃないというのに」
「そんなにゾッコンだったの?」
「勢いで既成事実を作ってしまうぐらいにはゾッコンでした。いやまさかデッドの初夜を覗くハメになるとは思いませんでした」
キャー。それはシェイが羨ましいと言うべきか、デッドが気の毒と言うべきか。
「デッドも男の子だね。お姉ちゃんとしてどこか嬉しいよ」
「あまりにも初々しかったのでつい、影ながらサポートもさせていただきましたよ」
「具体的には?」
「正体がバレない程度に、綺麗になって喜んでもらえる手段と道具を少し与えました。アイポは大喜びでしたし、デッドもそんなアイポにドギマギでしたね」
「シェイってば大胆」
なんだかすっごく楽しい話題。デッドが傍で聞いてたらどれだけ顔が歪んでたんだろうな。ある意味墓前で話してるわけだけども。
「許されるなら、生かしてあげたかったですね」
不意にシェイは、寂しげな表情で本音を漏らした。




