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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第5章 毒牙のデッド
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373 助けたい想い

 今も痙攣し、苦しみ続けるアクア。デッドが死んでなお回り続ける毒に犯されている。

 普通の強い人間だったらとっくに死んでいるはずだ。

「ブレイブ・ブレイドを放つときほどの、強い解毒魔法か」

 一日に全力で放てるブレイブ・ブレイド数は二発。もう一発分の余力は残っている。

 かつて共に旅をした仲間の言葉が脳裏を過る。

 治癒の力とは心の強さです。助けたいという想いが強いほど、治癒魔法はより強力な力を発揮します。

 ……助けたい心の強さ。

 ボクはアクアを助けたいのだろうか?

 確かにボクはアクアを殺すことをためらった。一度は見逃した。けど何が何でも助けたい相手かと問われると、自信がない。

 最愛のマリーを殺したアクア。

 向き合わなければ考えずに済んでいた。些細な日常でなら、気にしないフリも出来ていた。

 けど、全身全霊をもって助けたいと想えるほど、ボクは聖人じゃない。

 もしも一人でもヒーラーがいたのならなんら問題なく解毒を出来ていただろう。けど癒やしの適性が低いボクが解毒するとなると、割に合わない力を込めなければ解毒が出来ない。

 不意に遠のいていくアクアの青い瞳がボクを映し出す。

 感情の光を灯さないのは死にかけているからか、それとも、望んでいないからなのか。

 アクアを見下ろしながら悩みあぐねていると、小さく細い手がボクの背中に触れた。

「お願いジャス、アクアを助けて。アタシ、助けられたままアクアを見捨てたくない。文句がたくさんあるの。だからっ」

 背中越しに伝わってくるエリスの願い。

「そうだね。少なくともデッドとの戦いでは助けられた。このまま見殺しにしたら、勇者じゃないな」

 助けよう。全身全霊の力を、想いに変えて。

 敵を(ほふ)る荒ぶる殺意じゃない。一身に捧げる静かな願いを、力に込める。

「キュア・ブレイブ」

 透明すぎる力をアクアへと注ぎ込む。痙攣していた身体は徐々に落ち着きを取り戻し、光を失いかけた青い瞳に輝きが戻る。

 アクアは意外そうな表情をして立ち上がると両手をグーパーして感覚を確かめている。

 マリー、コレでよかったのかい?

 心の中で問いかけるけれども、答えも仕草も返してくれなかった。

「私、助かってる。あのまま終わってもよかったんだけど」

 誰に向かってでもなく呟いた一言は、エリスの怒りを爆発させた。

「自分の命を軽く捨てるんじゃないわよバカッ! でっかい恩を押し付けて逃げるだなんて許さないんだからっ!」

「やだなエリス。私の命は役目をとっくに終えていって、エリスは勇者の仲間としてもっと活躍しないといけないんだよ。どっちが大切かなんて……」

「勝手に決めつけるなって言ってんの! いいアクア。アクアはアタシが絶対に死ならないんだからね!」

「もー、エリスってば強情なんだから」

「どっちがよ!」

 ()かん子を呆れるように微笑むアクアへエリスが食いつく。このまま延々と終わらないのではないかと思っていたら、蠢きの洞窟全体が音を立てて揺れ出した。

「これは……言い合いは後だ。崩れるぞ」

 天井から所々砂利も降ってきている。急がないと間に合わないだろう。

 身に迫る危機にエリスとアクアは言い合いをやめ、脱出に入る。ボクたち全員が脱出しようとしてるなか、ドワーフの少女だけがデッドの身体(ぬけがら)を抱きしめて泣きじゃくっていた。

「くっ! ワイズっ!」

「スリープっ! 起きたときの説得は任せたかんなっ。運ぶの頼むぜクミン」

「どいつもこいつも世話が焼けるね」

 ドワーフの少女はワイズの魔法で強制的に眠ってもらい、クミンに横抱きで運んでもらう。

 必死に蠢きの洞窟を駆け抜け、ボクたちは無事に脱出したのだった。

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