364 湧き上がる殺意
「オモチャが壊れたら遊べなくなっちまうよなぁ。コレ、どういう事かわかるかぁ?」
狂気の笑みに怒りを滲ませながら問いかけてくるデッド。禍々しさに気圧され、ボクたちは反応できずにいた。
「遊びが終わんだよ。こっからはマジの殺し合いだぜぇ!」
赤い瞳が煌めき、デッドの身体が紫に輝く。
そうだ。ロンギングでの悲劇の奇襲でも見たことあったじゃないか。
鋭く長い八本の足が伸びるクモのように丸くデカい下半身に、ひょろ長い人間の上半身が生えた姿。ただし体色は紫に染まっている。
「ひっ!」
生気を失っていた囚われのドワーフたちから、引き攣った悲鳴が漏れる。
その人間離れした容姿も然る事ながら、毒々しく強大な存在感には気を飲まれそうになる。
「まずは挨拶がわりに死んでもらおうか」
紫の手のひらを上に向け、クモの糸を放つ。ゴツゴツと隆起した天井に糸を絡ませると、巨大な身体を引き上げるように跳んで、鋭い多脚で天井に着地する。
逆さまに立ち、互いに見上げあう構図が生まれる。
デッドはクモの糸を近くの岩へ放って絡めると、力任せに引き抜いて落としてきた。
巨大な岩の固まりが、デッドを中心に弧を描きながら振ってくる。
剣で相殺なんてとてもムリだ。質量が違いすぎる。避けるというより、その場から逃げることを選択する。
「うおぉぉぉお!」
岩とすれ違っただけで暴力的な風圧に身体を押される。
狙いを外れた岩は弧を描きながら上昇し、天井へと突き刺さった。
「なっ、落ちて……こない」
どんな勢いで叩きつければ、岩が天井に刺さると言うんだ。クモの糸と岩だけで大自然の強大なハンマーを即席で作り上げるなんて。
挨拶代わりの必殺技なんて冗談にもほどがある。
「挨拶したのに黙りこくってんじゃねぇよ」
デッドは天井から足を離し、落下しながら天井にクモ糸を絡ませる。ピンと張ったクモ糸を軸に、デッドが弧を描きながらボクに迫り来る。
広げられた八本の足。咄嗟に剣を振るも、右上二本の足で剣を弾かれ、右下二本の足で身体を掻っ裂かれた。
「ジャス!」
「ぐっ、おぉ……ヒールっ」
熱い。膝をつき、吹き出る血を手で押さえながら回復魔法で傷口を塞ぎにかかる。
見上げると、デッドは再び天井からボクらを見上げていた。
「悪ぃ悪ぃ。コレ殺し合いになんねぇわ。ただの一方的な殺戮だ」
舐め腐った態度だというのに妙な冷たさを纏っている。フレイルを振り回していたときにあった愉楽が、今は完全に殺意に変わっている。
「もう長く生きれると思うなよ」
デッドはもう、言葉だけでトドメを刺しに来ていた。




