363 破壊
矢と魔法が集中している中心に、剣を振るいながら跳び込む。
「ケっ、遠距離攻撃に紛れながら襲いかかってくんじゃねぇよ。こちとら対応中だ!」
フレイルで飛来する攻撃を的確に弾きながら、飛び退いてボクとの距離を取ろうとする。
逃がさない。その悪意に満ちあふれた非道のフレイル。何が何でも壊してやる。
「近付いてくんじゃねぇっての!」
デッドが退きながら、近場の岩を破砕して石礫を飛ばしてくる。
「その程度、わかっていればなんとでもできる」
迫り来る石礫を剣で叩き切りながら接近。フレイルを振り抜いて硬直しているデッドの口が驚きで開く。
「なっ……」
「うおぉぉぉぉお!」
「って驚くと思ったか?」
ニヤリと笑みに変わる表情。フレイルを両手で持ち、上段から叩き下ろそうとする。
「対処してくる事は想定済みだってんだよ。ひしゃげろ!」
予感がする。デッドのフレイルはボクの剣より速い。参ったな。完敗だ。ボク一人じゃデッドには敵わない。けど。
振り下ろさんとするフレイルの鈍器部分が、横から割り込んできた大剣に弾き壊される。
「ワシを吹き飛ばした程度で存在を忘れ去らないでもらえないかい。悲しくなって存在を示したくなるじゃないか」
ボロボロのクミンが岩陰から現れて一撃を浴びせた。
驚きで声も出せないデッドに、追撃の横一線を放つ。
もはや棒きれとなったフレイルを両手で突きだして防御をしたが、構わず振り抜いてデッドを押し飛ばす。
壊した。デッドの戦力を。怨嗟を生み出す悪意の象徴を。
デッドは突起した岩に背中から衝突し、座り込んだ。
「あっ」
不意に漏れてきた声は誰のだろうか。戦場に似つかわしくない、甘い声のように感じられる。
「っ……痛ぇなぁ。あぁ?」
デッドは不快そうに声を漏らしながら立ち上がると、両手にそれぞれ握っているフレイルの破片を確認する。
「あーあ、壊れちまった。せっかくのお気に入りだったのによぉ」
デッドはフレイルだった物を後方へ投げ捨てながら歩く。カラランと二つ、小気味のよい音が広間に響く。
「頼みの武器はもうないぞデッド。今負けを認め、自らの行いを悔やみ反省するのなら見逃してやってもいい」
仲間に衝撃が走るのを感じる。ボクは甘いのかも知れない。けど、こんなでもアクアの家族なんだ。手を差し伸べずに、一方的に断罪はしたくない。
「キヒっ……キヒヒヒっ」
デッドが俯き、肩を揺らしながらほろ暗い笑いをこぼす。
なんとなくわかってしまった。コレは、ダメなやつだって。




