361 岩砕
「クモの巣張り巡らせた程度で調子のってんっじゃないわよ!」
エリスが突起している岩の上へ跳び乗り、高所からの矢を連射する。
デッドは矢を叩き落としつつ、近場の岩をフレイルで砕いて石礫を散らしてきた。
エリスは表情に驚きを灯したものの、次の足場に跳び移りながら反撃の矢を放つ。
「力任せの遠距離攻撃なんて当たらないわよ」
「単発じゃ当たんねぇかもだけどよぉ、そのうち当たんじゃぁねぇのかぁ」
岩砕の石礫で矢を飲み込みながら反撃してくる。
弓矢と岩砕の応酬。一見互角の攻防が続いているように見えたが、エリスは徐々に張り巡らされたクモの巣で退路を限定されていた。
「そろそろ捕まんじゃねぇか。選びなぁ、岩塊かクモの巣かよぉ!」
轟音をあげながら岩を破壊して石の礫を飛ばすデッド。
エリスは躊躇いなくクモの巣が張り巡らされている方へ跳び、隙間をすり抜けながら反撃の矢を放つ。
上手い。エリスの身のこなしがこうまで上達していたなんて。
「やるねエリス。特訓の成果が出てるよ」
アクアは足を揺らしながら、上機嫌に微笑んだ。水溜まりの特訓は、デッド戦を想定していたのか。
「なっ、器用なことしてんじゃねぇよクソがっ!」
この反撃は想定外だったのか、デッドは怒り散らしながらフレイルで矢を叩き落とす。
「ちょっとエリスを構い過ぎなんじゃないかい」
矢の対処をしている隙を突いたクミン。デッドの背後から重たい一撃を振り下ろす。
「ちっ、クソアマがぁ!」
デッドは前へ飛び込むことで躱しつつ、追撃を許さないようクモの巣でクミンとの間を遮断した。
今デッドは体勢を崩している。クミンの攻撃に対処しきった安心感から緩みもある。ボクの回復も済んだ。好機。
「デッドは遊んでいるつもりかも知れないけどね、こっちは遊びじゃないんだ。遊んでいる内に終わらせてもらう」
瞬時に肉薄するとデッドの顔が驚愕に歪む。実力を出させる前に、呆気なく決める。
「舐めんなっ!」
反射的にフレイルを振り回して、牽制してきた。やり過ごす為に動きを止めたのだが、一瞬の硬直をしている後方に跳んで臨戦態勢を整えさせてしまう。
跳んだ先はエリスから見て岩の影。瞬間的な矢による援護も期待でない。
「ボムズ!」
「なっ!」
デッドが影に利用していた岩にワイズの爆発魔法が炸裂し、石礫を浴びせる。土砂に埋もれ、戦場に静けさが生まれた。
「さっきから散々遊んでくれたじゃねぇか。テメェも石遊びに参加しやがれってんだ」
土埃で汚れたワイズが、杖を構えながら言い放つ。ボロボロな様子からボクは、咄嗟に回復魔法を飛ばした。
「ヒール。まだ強がってくれよ、ワイズ」
「当然だ。勇者のチームプレイってヤツをイキってるガキに見せつけてやんなきゃな」
「まだ生きてるんだろ。ワシらに死んだフリなんて効きゃしないよ」
隙なく土砂を睨み付けていると、何事もなかったかのようにデッドが起き上がってきた。ケガひとつ負っていない。
「随分な言い草じゃねぇか。ボクだってここ数日特訓したんだ。成果ってヤツを見せつけてやんぜ」
デッドはフレイルを構え直しながら不適に笑みを浮かべた。




