357 傍観者
いやー、デッドも盛大な歓迎をするね。
ビッグバットにゴブリン。続いてマタンゴにコボルト、オオムカデと群れる魔物のオンパレード。
けどちょっと数任せすぎで雑な感じ。
ジャス達の疲労はちょっとずつ溜まっているけど、致命傷にはまだまだ届きそうにない。
ゴリ押しはわかりやすく強力な方法だけれど、芸がないんだよね。
要所要所で中ボス級の魔物を配置すれば多少見栄えも変わりそうなんだけれど。
ジャス達は群れる魔物との戦いに適応し始めてる。こんな配置じゃあっという間にデッドの元に辿り着いちゃうぞ。
「次の群れのお出ましかい」
「またゴブリンかよ。ホブゴブリンもちらほら混じってるみてぇだが今更……ちったぁ面倒になったじゃねぇか」
「ワイズはホブゴブリン如きで怖じ気づいたのかしら?」
「挟まれてっから油断すんなエリス!」
勇者パーティの隊列を崩しにかかる挟撃。洞窟の構造を生かした小細工なんだろうけど、奇策としてはやっぱり弱いかな。
「クミンは後方を、ボクが前面を受け止める。エリスとワイズはホブゴブリンを中心に仕留めてくれ」
ジャスの号令に瞬く間に反応するチーム。
多少の驚きはあっただろうけど、致命的な隙は生まれなかった。即座に対応され、瞬く間の殲滅が開始される。
「毎回群れるのが一種類っていうのが惜しいんだよね。もっとごちゃ混ぜだったら対応も困りそうなのに」
戦略が残念でならないよデッド。しかもこの魔物、私まで襲おうとするし。
容赦なく襲いかかってくるゴブリンを軽くいなしながら、錬成したトライデントを片手に斬り捨てる。
「特に勇者の力になるつもりはないけど、私に襲いかかってくるなら容赦しないよ」
松明で片手が塞がっているとはいえ、ゴブリン程度じゃね。
ターゲットもわからない頭脳に呆れつつ、忠告を聞かないゴブリンを斬り続ける。
やがてこの群れも呆気なく殲滅し、束の間の静寂が訪れる。
「いい加減、松明の明かりじゃ心許なくなってきたね」
「ワイズ、明かりを頼むよ」
「あいよ。アクア、探検ごっこは終わりだ。フロアライト」
ワイズが光の魔法を唱えると、周囲が一気に明るくなった。心細い松明の炎はなんだったんだろう。
「ちょっとみんな。こんな便利な魔法があるならどうして最初から使わなかったのよ!」
私の理不尽を代弁するように、エリスが両腰に手をつけながら問い詰める。
「アンタ達があまりにも探検を楽しんでたからね。ワシらも童心に戻ってみたくなったのさ」
「なかなかの緊張感だったろ。遊べる内に遊んどこうと思ってな」
クミンとワイズのしたり顔で、私は楽しんでいたことを自覚する。松明の炎は確かにドキドキしたよ。
「アタシは洞窟探検を楽しむほど子供じゃないんだからね」
エリスは納得いかなかったみたいで、子供のようにむくれちゃった。素直じゃないな。
「遊んでいたことは謝るよ。そろそろ松明を持つのも邪魔になってきそうだしね」
申し訳なさそうな苦笑で謝るジャス。
「けどもう遊びは止めよう。いちいち殲滅してたらキリがない。活路だけ開いて駆け抜けるよ」
水色の瞳に真剣さをキラめかせ、号令を出す。
じれったさをかき消すように、前へ逃げる戦術をジャスは取った。




