356 群れる魔物達
弱々しい松明の炎が洞窟を照らす。むき出しの岩肌。一定間隔で組まれた木材は洞窟の崩落を防いでいるのだろう。
最初こそ鉱山の名残であるトロッコのレールが繋がっていたが、少し足を踏み入れただけで遮断されていた。
壊れたレールの跡さえ存在しない。補強された木材さえ消え失せた岩肌のみの空間。不安定な足場に、地形。もはや鉱山とは別物と思い知らされる。
「蠢きの洞窟って言うだけあって、洞窟その物が蠢き続けてるってか」
「もしもそうなら随分と単純な名付けじゃないかい」
ワイズとクミンが軽口を叩き合いながらも武器を構える。
濃くなりゆく腐臭に強い殺意の数々。少し足を踏み入れただけだというのに、かなりの量だ。
「エリス構えて。大群が来るよ」
ボクの言葉にエリスが気を引き締めたと同時に、キィキィと鳴き声を鳴らしながら大型コウモリが飛来してきた。
「ウィンドカッター。いきなりのおもてなしだなぁおい」
ワイズの放った風の刃がコウモリを複数切り裂くも、数を減らしたと思えないほどの密集感で襲いかかってくる。
エリスも連続で矢を射るが、焼け石に水と言った具合だ。
「ちょっと、いくらなんでも多過ぎ」
遠距離からの牽制も虚しく、コウモリの群れは瞬時に肉薄してきた。
「速くて多いね、けど」
「少々脆いんじゃないかい」
ボクとクミンが一閃するたびに複数のコウモリが二つに裂かれて落ち、地面に死骸が重なってゆく。
地道に一匹ずつ、けれども被弾をせずに切り裂いてゆく。全員で攻撃に集中させ、五分と経たずに殲滅する。
「まったく。いきなり多すぎるのよ」
「まだ一つの群れが終わったばかりだよエリス」
「なるほど魔物がウジャウジャ蠢いてらぁ。次の群れが来るから気ぃ抜くなよ」
ワイズが発破をかけると同時に、ゴブリンの群れが押し寄せてきた。
錆びた武具に醜い形相、小柄ながらも嗜虐に満ちたオーラを放っている。
「ワイズ」
「わぁってるよ。チェーンライトニング」
ワイズから放たれた雷撃が先頭のゴブリンを焦がし、連なるように次々に他のゴブリンへと感電していく。
遠距離に対する殲滅力の高い魔法だが、それでも撃ち漏らしがある。
「こんなザコを相手に足止めを食っている暇はない。みんな突貫するぞ」
気合いの一声を上げて敵へ走ると、アクアを除く全員が続いた。
長い消耗戦を予感しながらも、足をひたすらに動かし続けた。




