353 影からの後方支援
僕は蠢きの洞窟最深部まで戻ると、人妻共を強制的に寝かせてからアイポを招き入れる。
そろそろ暗くなってくるし、僕の送ったプレゼントも勇者が処理した頃だろう。
ちょっとイチャついたらアイポを帰すか?
ベッドへダイブするアイポを眺め、ガキ臭ぇ行動だなぁとぼんやり思う。
「ほらデッド。そんなところで突っ立てないでこっち来てよー」
訂正。いっちょまえに誘ってやがるわ。ベッドに寝っ転がりながら手招きしやがって。
溜め息を吐きつつベッドへ歩み寄る。
明日が勇者との決戦だ。言い換えるなら、アイポと触れ合うのもコレで最後になるわけだ。
「なぁアイポ。今日は泊まってくか」
不意にそんな言葉が口から漏れ出てきやがった。
きょとんと見上げるアイポは、次第に口元をにんまりとさせる。
「そっかそっか。わたしご飯は質素でもいいから、水浴びぐらいはしたいなー」
「それなら向こうに風呂を作ってあるからな。湯船に浸かって綺麗になれるぜ」
ダンジョンとはいえ根城だかんな。暮らすのに必要な設備がないと僕が困る。
親指で示すと、アイポは両手で頬を挟みながら首をブンブン横に振った。もじゃもじゃしたピンクの髪が愉快に揺れる。
「キャー、綺麗になれるぜ。だってー。デッドも綺麗なわたしも方がいいんだね」
しまいにはバンバンと背中を叩いてきやがった。
僕はなんで泊めるなんて言った? 明日戦いが控えてるってのに身体が休まらねぇじゃねぇか。
「そうと決まればご飯にするかお風呂にするか? デッドはどっちがいい?」
本気で迷った問いだな。とある定型文出されても困るけれども。
「腹ごしらえしてから風呂でいいんじゃねぇか。あでも、その前に使い方教えねぇとな」
ジジイの世界を参考にした、イッコクじゃハイテクな風呂場だかんな。って、アイポの場合イッコクの一般的な風呂さえ使い方わかんねぇか。たぶん。
浴槽は勿論一人用だ。ムダにデカくても湯を溜めるのがめんどうだ。蛇口やらシャワーやら温度調整やら、教えることはそこそこある。
「一緒に入って教えてくれるんじゃないの?」
秒で爆弾投下すんじゃねぇよ。何当たり前でしょみたいに言ってんだ。浴槽は一人用、二人じゃ狭ぇんだよ。
「テメェの身体ぐらいテメェで洗え」
「えー、背中の流しっこぐらいしようよー。せっかくの機会なんだよー」
せっかくの機会って……あながち間違いでもねぇか。僕らタカハシ家の風呂は他にはねぇかんな。
結局アイポに丸め込まれた僕は、一緒に飯を食って、ちょっとお茶をして、二人で脱衣所に入る。
浴室は洞窟とは別物に作ってあるからな。綺麗で清楚な壁紙にアイポが酷く驚いてたぜ。
シャンプーなんかは汚れさえ落とせりゃいいからシンプルなものしか置いてない……。
「デッドってばオシャレな石けん取り揃えてるんだね。丁寧にメモまで書いてくれてるなんて……もぉ、いつからその気だったの?」
「あん?」
頬を赤くして照れ笑いしながら見上げてくるアイポには悪ぃが、僕はそんなの知らねえぞ。
「アイポ、ちょっと貸せ」
メモをひったくって確認する。
なんじゃこりゃ。正しいシャンプー、リンスの使い方からトリートメントまで事細かく書いてあんじゃねぇか。しかも手順がクソめんどくせぇ。
それにクチナシの香る香水だぁ? んなもんこんな場所に持ち込んでるわけねぇだろ。なんであんだよ!
「早く入ろうよデッド。そんなメモ残しいてくれてるんだから、サービスしてくれるんだよね」
まっぱが湯気でモクモクになってる浴室へと入っていく。
なんで気持ち的に逃げ場がなくなってんだ。今から回れ右して逃げていいか?
よくわからんが、女ってのは大変なんだなと思い知らされたぜ。




