表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第5章 毒牙のデッド
351/738

350 恐怖からの解放

 村長と話をつけたボクとワイズは、宿でクミン達と落ち合った。

 クミンは無事に幼なじみのペトラに会って、大剣の整備をお願いしたらしい。今日中に終わるようなので助かった。

 明日には鉱山に攻め込みたかったからね。クミンの大剣抜きじゃこの戦い、まともな勝負にすらならないだろうから。

 明日攻め込むことを伝えると、呆れた表情でやっぱりねと言われてしまった。

 ボクはわかりやすいほどせっかちなんだろうか。

 なお装備の新調については素材不足を理由に断られたようだ。

 やはりペトラの所にも鉱石は残っていなかった。

 アクアと訓練をしながら時間を潰し、陽が赤く染まってきた頃だ。攫われた女性が一人逃げ帰ってきたと情報が飛んできた。

 一人でも助かったのなら朗報だ。

 ボクたちはその女性ドワーフの元へと向かった。自分で言うのもなんだがボクは勇者だ。傍にいるだけで安心感を与えられるのではと思っての行動だった。

 あわよくば鉱山内部の情報も話してくれるのではとも思っていた。

 駆けつけて見た女性は、見るも無惨な状態だった。身体中が腫れ上がり、衣服はズタボロに破られていてあられもない姿をしている。なにより怯えながら泣き崩れている様が、どんな恐怖を体験してきたかを物語っている。

「かわいそうに。アイツはまだ結婚したばかりだったのに」

 遠目から眺めていたドワーフたちの会話が嫌でも耳に入る。

 つまりあの女性は新婦って事か。どう見ても手籠(てご)めにされているじゃないか。男のボクでさえ屈辱と恐怖が想像できてしまう。女性だったらもっと共感でしてしまえるのではないか。

 コレがデッドの所業(しょぎょう)だとでも言うのか……。

「ふざけるな」

 奥歯を噛み締め、吐き出すように呟く。一人の女性をこんなになるまで(おとし)めるなんて、貶めるなんてぇ。

 酷すぎて適切な言葉が思い浮かばず、握りこぶしをグッとキツくする。

 アレほど酷い状態の女性に何を言えば救える? 希望を取り戻させることが出来る?

 勇者という希望がいかにちっぽけか思い知らされる。

 深く刻まれた心の傷は、第三者では到底癒やせない。

 不意に、泣きじゃくっていた女性の動きが止まる。

 ……なんだ?

「ぃ。痛い。痛い痛い痛いっ! あぁぁぁぁあ!」

 目を剥いて全身を痙攣させると、しまいには仰け反って金切り声をあげた。

 そして腹が裂けると、見上げるほど巨大なクモの魔物が産み出てきた。

「っ……なっ!」

 突然の出現に放心してしまう。そしてソレはボクらだけでなく、周囲にいたドワーフたちも同様だった。

 魔物が動揺に気遣ってくれるはずもなく、なぎ払われる細長い足や、吐き出されるクモの糸がドワーフたちを襲う。

 ワイズが魔法を撃つのに、エリスが弓を構えるのに、ボクが剣を抜くのに、僅かに時間がかかってしまった。

 巨大なクモの片隅には、腹が裂けきったドワーフの女性が恐怖と絶望に目と口を開けたまま事切れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ