348 クミンの幼なじみ
ジャスとワイズが村長と話をつけている間にワシは、エリスとアクアを連れて幼なじみの鍛治士を尋ねていた。
比較的新しい木造の一軒家の前に立ち止まる。白い壁に赤い屋根と相変わらずしゃれてるねぇ。
「ここに来るのも久しぶりになっちまった。ジャスを祝いにロンギングに行って、すぐに帰ってくるつもりだったのに」
「クミンも大変だね。ご苦労様」
「誰が暴れたと思ってるんだい」
アクアは悪気もなく労うんじゃないよ。特に大戦犯を起こしたのはアンタなんだからね。
とやかく問い詰めたい気持ちを押さえながら、ドアをノックする。
「いるかいペトラ! 急遽頼みたいことがあるんだ!」
大声を上げると家の中からドタバタと音が聞こえ、勢いよくドアが開かれる。顔を出したのはワシと同じ背丈の男だ。
赤く短いボサボサの髪に赤い色の垂れ目をしている。ドワーフにしては細身だが引き締まっているよ。
「クミン。久しぶりだね。随分長い外出だったじゃないか」
ワシの顔を見るなりにニヘラと軟弱な笑顔になる。
「傍にいるのは新しい仲間かな? 見たことないけど」
「一応仲間なのはエルフの娘のエリスだけだよ。アクアはまぁ、旅のおまけみたいなもんだ」
敵ではない、はずなんだけどねぇ。
「ふーん。まぁいいや。三人とも入りなよ。玄関先で話すのもなんだしさ」
ペトラはワシらをじっと眺めてから、家の中へと入っていった。
「なんかペトラって、ドワーフらしくない人ね」
「長い付き合いのワシでさえそう思うよ」
ヴェルクベルクで一緒に育った仲だからね。歳はワシよりひとつ下。お人好しで争いに向かない性格ときたもんだからかなりの変わり者だよ。酒もあまり飲まないし。
「けど鍛冶の腕は確かだよ。手土産も持ってきたし、いい装備を期待できるだろうね。行くよ」
エリスに微笑んでから、勝手知ったるやという気軽さで家の奥へと入っていく。おずおずとしているエリスに対し、アクアは物怖じせずについてきた。
整理されたリビングに通され、椅子に座って対面する。酒の一杯でも出してくれれば完璧なんだけどねぇ、オシャレなハーブティーだったよ。
「早速で悪いけどね、装備の修復と新調をお願いしたいんだ」
ワシは持ってきた土産をテーブルに置き、背負っている大剣を視線で促した。
土産は鍛冶に使う数々の素材だよ。コレに鉱石さえあれば、一級品を作ってくれるだろうさ。
普段だったら二つ返事で承諾してくれるんだけど、ペトラは困ったように頬を掻きながら苦笑する。
「うーん、大剣の整備だったらすぐに出来るけど、新装備はちょっとムリかな」
意外に思ったものの、鉱山を占拠された挙げ句、備蓄していた鉱石を根こそぎ奪われたと聞いては納得せざるを得なかった。
「ヴェルクベルクも大変になっちゃったんだ」
「知ってるさ。世界各国で新たなる魔王の被害を受けているんだ。だから装備がいるし、ワシら勇者一行がヴェルクベルクに来たのさ」
魔王侵略の危機に晒されているから不安だったけど、ペトラが無事でよかったよ。表だって戦いはしないだろうけど、何かの拍子で巻き込まれる可能性もあるからね。
「そっか。クミンはまた危険な旅に出てるんだね」
「そう。出来ることならエリスにだけでも魔力系のアクセサリーを作ってもらいたかったんでけどね」
エリスは発展途上で成長が楽しみな反面、未熟な部分が足を引っ張りかねない。心配にならない方がムリだね。
「確かに一つは身につけておくと不安が減るだろうね。それとアクアだっけ、ホントに仲間じゃないの? すごく心強そうなんだけど」
赤い垂れ目がアクアを眺めながら尋ねる。ホントにペトラは、戦士を見る目は一流だわ。
「私は観戦だけだから装備はいらないよ。武器だって自前のがあるからね」
「そっか。残念だ。アクアに見合う武器を作れたなら栄誉な事になりそうだったんだけどね」
微笑むペトラはアクアの強さをどれほど想像できているのかねぇ。
それからワシらは近況報告をし合う。
昨日村の女性が攫われたって話を聞いたときは、ペトラが男でよかったと胸を撫で下ろしたよ。もしも女だったら被害者になっていた可能性も捨てきれない。
大剣は今日中に仕上げてくれると言ってくれた。ジャスの事だから明日にでも鉱山に乗り込みそうだったから助かるよ。
ワシだけ家に帰ってもいいんだけど、仲間をもてなすのがめんどうだから宿を使うことにしたさ。




