347 やりすぎた卑劣
「森を切り開いた道だというのに、鉄の臭いが混じってきたね」
ボクら勇者一団は、馬車が一台やっと通れるほどの坂道を進行していた。この調子なら正午ぐらいにはヴェルクベルクに辿り着くだろう。
長旅になってしまったが、その分パーティ全体をアクアに鍛えられた。けど失った時間でヴェルクベルクにどれほどの被害が出ているか考えるだけで焦りが募ってしまう。
アクアが言うには、デッドは残酷な性格らしい。
「顔が怖いぜジャス」
ワイズが背中を叩きながら声をかけてきた。
「まずは村長に挨拶しねぇといけねぇだろぉ。そんな怨敵抹殺みたいな表情じゃ相手さんが錯乱しちまうぜ」
「ボクはそんなに怖い顔をしていたかい?」
「アクアに怒ってるエリスみたいだったぞ。物腰柔らかくいこうぜ」
「ははっ、それはいろんな意味で怖いな」
聞かれていても知らないぞと思いながらも、クスッとしてしまった。後の話だが、ワイズは的にされていた。
総勢三十五名の大所帯でヴェルクベルクに到着し、ボクはワイズと共に村長と対話をする。
御年二百二十を越えたドワーフの男だ。髪やヒゲを白くさせてはいたが、逞しい体付きに衰えは感じられない。
寡黙ではあったが話が通じないわけではなく、ボクたちの救援を受け入れ宿を手配してくれた。けどそれまでだ。
戦いに備えて装備を融通してくれないかと頼むも首を横に振る一点張り。
お金の問題ではないらしく、いくら詰んでもムダだった。
ドワーフの矜持がある。練習や量産で作った装備ならまだ許せるが、至高の一品ともなると武器に見合う者じゃなきゃ納得できないようだ。
だったらせめて量産品だけでもと懇願したが、僕ら勇者一行では装備が負けてしまい、逆に精鋭たちだと装備するに値しないと一蹴された。
そしてそもそも、装備を作る素材がないと打ち明けられた。
鉱山は突如として魔物が巣食う魔境へと変質し、鉱石を掘れなくなってしまった。村にいた屈強なドワーフ戦士やたまたま滞在していた冒険者が鉱山に入ったが、事切れて返ってきた……いや、返されたらしい。
更に村に蓄えられていた鉱石でさえこぞって魔物に奪われたと。
装備を調えるにはまず、元凶であるデッドを倒すしかないようだ。
次に被害状況の確認をしたところ、胸くそ悪い話を聞けた。
昨日鉱山の魔物がスタンピードを起こしたらしく、防衛に出た戦士達が負傷、死傷したとか。どうにか押さえつける事が出来たものの、痛ましい被害を受けてしまった。
までならまだよかった、と言われて村長に怒りがこみ上げてきた。
しかし続く言葉に絶句してしまった。
スタンピードで混乱している合間を縫って、村からドワーフの女性が五人行方不明になった。
そして内二人が見るも無惨な痛ましい姿で、鉱山の入り口付近に転がされていたと。
戦いとは無縁の悪意に晒され、一方的に嬲られた恐怖だけが見るだけで伝わってきたと言う。
鉱山の奪還とヴェルクベルクの平和を頭を下げて頼まれる。受け入れない理由がなかった。
やり口が卑劣に過ぎる。デッド討伐に後ろめたさがまったくなくなった。
今日準備を調えて旅の疲れを癒やし、明日乗り込むことを胸に決意する。




