343 デッドの情欲
明るい洞窟って言うのも変な話だが、とにかく僕は蠢きの洞窟の最奥でフレイルの素振りをひたすら続けていた。
遠くでソファーに座りながらボーっとアイポが眺めてるぜ。
分銅の部分って言やぁいいのか、棍と違って先端部に遠心力がかかるから振り回されやすかったが、ようやく癖が馴染んできたぜ。
「デッドってば意外とマメだよね。もう何日も同じ素振りを繰り返してるし」
「アイポこそ同じ事見てるだけで退屈なんじゃねぇか」
暗くなったら帰るものの、毎日僕にくっついて蠢きの洞窟に入り浸ってるからな。もうちっと娯楽用品でも持ち込んどくんだったか。
「退屈だけどおもしろいかな。デッドが話し相手になってくれるし、フレイルを振る動作にブレがなくなってきてるのを見るのも惚れ惚れする。かっこいいよ」
かっこいい、かっ。言われて悪ぃ気はしねぇな。
「僕の腕が仕上がってるのは上々だぜ。勇者が攻め込んでくるまでに間に合ってなによりだ」
「思ったんだけどさーデッド。ホントに勇者ってくるの?」
勇者が来るって言ってから数日、何の音沙汰もなきゃ疑念にも思うわなぁ。
「間違いなくくるぜ。あと二日で到着だって情報も入った」
アクアのバカが頻繁にチェルとお喋りしてっからな。おかげで情報に困ってないんだが、どうも不安が拭えねぇ。
「ホントにー? デッド不安な顔してるよー」
「信頼ねぇなぁ。不安なのは別口だから気にすんな。それと、明日からは派手に動くかんな、巻き添い食らいたくなかったらお家で大人しくしてるのも手だぜ」
人質を長く生かすのもめんどうだかんな。活きがよくなきゃ反応も鈍くなるし、勇者を煽るにゃぁ派手な演出が望ましい。
「お家でお留守番なんてごめんだよ。どんなに怖くったって、デッドの傍にいる方がドキドキするもん」
ピンクの瞳でまっすぐ訴えてきやがんじゃねぇか。何がそんなに執着させんだかな。
「ドキドキねぇ。なんならアイポを襲ってやろうか。キヒヒっ」
下卑た笑いを作りながら舌なめずりをする。僕が男でアイポが女だって今わからせるのも悪くはねぇよな。
今まで思いもしなかったのに、急にそんな欲が浮かんできたぜ。
「デッドってばおませさんなんだから。ヤれるもんならヤってみなさいっての」
あぁん、おませって言葉の使い方知ってんのか? 十歳児の未開発な女の子が粋がってんじゃねぇぞ。
僕とて六歳児だが、身体は成長してんだかんな。
勢い任せにベッドへ押し倒す。強張った顔で睨んでばかりいねぇで抵抗しろってんだ。こっちはブレーキ壊れる手前なんだぞ。
「デッド怖い? 押し倒しておいて止まっちゃてるよ」
「黙れよマセガキ」
生意気で柔らかな唇を塞ぎながらブレーキを壊した。もう止まってやらねぇ。
事案後。
「痛かったんだからねっ! 痛かったんだからねバカーっ!」
と泣き叫びながらぽかぽか叩いてくるアイポを無愛想に宥めながら、どうして急にシたくなったのか考える。
ムシャクシャした理由なんて全然わからなかったぜ。




