342 アクアの立場
「おーおー、朝っぱらから精が出る小娘共だ。鍛錬もいいけど、旅をする体力を考えているのかねぇ」
ワシは腰に両手をつけ、エリスとアクアの特訓風景を眺めながら呟いた。
まっ、居ても立っても居られない気持ちはわからなくもないけれども。今回の敵は強くていびつだ。
「クミン、エリスはまたやってるのかい」
「おはようジャス。若いのはガムシャラで羨ましいよ」
チラリと振り向くと、爽やかな顔をしたジャスがエリス達を眺めていた。アクアに対するわだかまりも抑えられてるねぇ。
「アクアもすっかり馴染んだね」
「さすがにロンギングに戦況報告と物資調達に戻ったときは身を潜めてもらったけどね。派手に暴れて顔が知れ渡ってちゃってるからさぁ」
「アクアは国の所要人物を殺した重罪人だからね」
マリーの名は嫌でも避けるかい。言葉に刺々しさが溢れてるよ。
「そのアクアが意外と旅のメンバーに馴染んでいる事にワシは驚いてるよ」
ワシら勇者パーティだけで旅を進めるつもりだったんだけど、国から精鋭をもらっちゃったせいで人間関係に不安が出たんだよねぇ。
「精鋭達もアクアの存在は知っているからね。それなのに仲良くやれているところに驚きを隠せないよ」
「仲良くどころか精鋭達から人気者になっているのが恐ろしいよ」
最初こそピリピリしてったてのに、明るく声をかけて、野営料理を振る舞って、おまけに腹ごなしと称して模擬戦を買って出たあたりでみんな色々吹っ切れたんだよねぇ。
「カリスマって言うのがどういうものなのか思い知らされるよ。人間じゃない事が惜しいぐらいだ」
眩しいものを見るように目を細めるじゃないかい。勇者だって立派なカリスマなのにさ。
「まっ、情報がダーダー漏れ出てくるところが玉に瑕かねぇ。お偉いさんは公私の区別がどうこう言うんだろうけど、アクアは敵味方の区別なく話をするから」
助かってる反面、ワシらの事が敵側に漏れてる気が……いや、漏れているから困ったもんだよ。
「平然と行われる情報漏洩がどうして許されてるのかボクにはわからないよ」
「強いからじゃないかい。咎めたところで実力行使じゃ止められない」
「だとしても、アクアに罪悪感はないんだろうか」
罪悪感ねぇ、元より薄そうだからどうとも言えないんだよねぇ。
腕を組みながら青空を仰ぐ。旅を進めるにはいい日じゃないかい。
「ところで、クミンはアクアと手合わせしないのかい?」
「してるさ。ワシだって強くならなきゃなんないからね。特にヴェルクベルクには守りたいヤツもいるしさ」
鍛冶をさせたら一流の幼なじみが待ってんだ。敵の毒牙にかかってないといいんだけどね。アイツはワシと違って腕っ節が弱いから。
「そろそろ出発とするかねぇ。特訓にばかり時間を費やしてばかりじゃいつまで経ってもヴェルクベルクに辿り着けやしないよ」
エリス達に特訓の終了を告げて、ワシら一同はヴェルクベルクを目指す。
昨夜酒が入ったワイズも叩き起こさないとね。




