表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第5章 毒牙のデッド
342/738

341 エリスの特訓

 アクアとの戦いを終えて二週間。

 アタシはジャス率いる勇者パーティにアクア、そしてロンギングの精鋭三十人を引き連れて馬車で進行をしていた。

 目指す鉱山の村ヴェルクベルクは遠いので、行く先々の村に立ち寄りながら進んでいた。

 名前も知らなかった小さな村に一泊。アタシは朝のすがすがしい陽を浴びながら、簡易な的に向かって矢を放っていた。

「当てるだけじゃダメ。常に魔力を込めて、動きながらでも正確に、強く速い一撃を放てないと」

 左右に走り、無茶な体勢で弓を引いては放つ。ブレてはいるけど的には当たってる。けどダメだ。

「アクアと戦って、触れ合って実感した。敵の果てしない強さを」

 真の意味ではアクアに勝てなかった。勇者一丸で全滅も普通にあり得た。そんなアクア(クラス)の敵と後七人も戦わなきゃいけない。

「勝つ為……うんん、生き残る為にももっと強くならなくっちゃ」

 もしかしたら最後まで生きられないかもしれない。けどせめて、アイツだけはアタシの手で。

「おはよーエリス。今日も朝から精が出るね」

 気合いを入れているところを、アクアが後ろから抱きついてきた。

「ちょっとアクア! 鍛錬の途中でいきなり抱きつかないでって何回言ったらわかるのよ」

 まだ短い付き合いだってのに、何回同じ事を叫んだ事か。しかも今日はなんか口に咥えてるし。

「抱きつけるって思ったからつい。だいぶ動きにキレが出てきてるよ」

「ついでとばかりに褒めないでよね。それと何食べてるわけ?」

「イカ焼き」

 ……イカ?

「あんた、確か半分クラーケンじゃなかった?」

「そうだよ。あそっか。人間って人食べないから違和感覚えちゃうんだ」

「ちょっ、例えが不穏過ぎるわよ!」

 何サラっと人間が食料発言してんのよバカ。アクアがイカ食べるのってそういう感覚なわけっ。

「そんなに慌てないでよ。軽い冗談だって。エリスってばかわいいんだから」

 かなりいい笑顔をされたから、黙って頬を摘まんでやった。

「もー、事あるごとにほっぺた摘ままないでよ」

「アタシにほっぺたを摘まませるようなしないでよね」

 どうしてもアクアがアタシより圧倒的に強い事を忘れさせられちゃうのよね。

「楽しい特訓方法してるけど、デッドを相手にするにはちょっと心許ないかな」

「デッド?」

 急に知らない名前出されても困るんだけど。

「クモみたいな男の子。ヴェルクベルクで待ち構えてる私の弟。クモの巣を使ったトラップとか使うのが得意だね。腕っ節も強いから油断できないよ」

「は?」

 なんかとんでもない情報がダダ漏れになってる気がするんだけど。

「ちょっとアクア、ストップストップ。そんな事アタシ達に教えちゃっていいの?」

 アクアは敵対しなくなったとはいえ、味方になったわけじゃないのよ。それなのに肉親の情報を勇者(アタシ)達に教えちゃうわけ?

「いいんじゃないかな。私が直接手を下す訳じゃないし。ってわけで、特訓方法変えてみよっか」

 アクアはあっけらかんに言うと、地面に数ヵ所水溜まりを作った。よく見ると的にも小さな水球が張り付いてる。

「何アレ?」

 指差しながら尋ねてみる。特訓するのに邪魔でしかないんだけど。

「あの水溜まりは敵の罠で、踏んだら致命傷を受けるって設定かな。的の水球は敵の急所だと思えばいいよ」

「罠に急所、ね。実践的でいいじゃないの」

 余計な気遣いしてくれるじゃない。けど行き詰まってたのも事実だし、上等だわ。

 不思議と笑みが浮かびあがっちゃう。強くなれる予感がする。

「今日はこのまま特訓しよっか。明日からは特訓の途中で水溜まりと水球を動かすつもりだからそのつもりでね」

「あんたは鬼かっ!」

 一気に敷居を高くしないでよね。聞いただけで心折れそうになったじゃないの。

「やだなー。私は鬼じゃなくてイカだからね」

「もうちょっとクラーケンである事に矜持を持って。自らイカ呼ばわりしないで」

「私に矜持を持たせたかったら、私の特訓をやりきってよねエリス」

「なんであんたの矜持がアタシにかからなきゃいけないのよ!」

 やってやるけどさぁ! なんか納得いかない。

「そうそう。強くなってね、エリス」

 アクアの笑顔が、少し陰って見えた朝だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ