340 使い心地
「歯ごたえがあって、しょっぱくておいしいお菓子だね。けど選択が渋くないかな? デッドってこういうのが好み?」
アイポが出されたせんべいをバリボリ食べる。菓子はテキトーに日持ちしそうなのを選んだかんな。気づいたらシェイ好みのチョイスになってやがった。
よくよく考えたらクッキーとかもそこそこ持つよな。まっ、いっか。
「ほっとけ。僕は菓子作りとか出来ねぇかんな。テキトーに持ってきただけだっての」
「ふーん。お茶も?」
「茶ぐらいだったらテキトーに湯ぅ沸かして淹れられるぜ。味はお察しだがな」
「それ自慢になってないヤツだよねー」
ゆっくりと雑談を楽しむのも悪かぁねぇ。暇つぶしにはな。
僕は遠くから聞こえるコウモリの音波を感じながら、腰を上げたぜ。
「デッド? きゃ」
不審げに見上げてきたアイポだったが、大型のコウモリが三匹飛んできて悲鳴を上げたぜ。全長はアイポと同等ぐらいか。
「デッドどうしよ。魔物が」
「安心しろって。僕のペットみたいなもんだからよぉ。キヒヒっ、侵入者だとよ。鉱山奪い返しに来たんかねぇ」
数は三人か。屈強なドワーフ共ねぇ。
「魔物がペットなんて普通じゃないよ」
驚きで表情が固まってやがるな。そろそろ潮時かもな。アイポは悪ガキだけどイタズラレベルだ。犯罪に巻き込まれんのはごめんだろぉ。
「昔言わなかったかぁ。僕は魔王側だって。正確には魔王の息子だ。気にくわねぇヤツは雑にも丁寧にも殺すぜ」
獰猛さを匂わせながら笑ってやる。引き下がるなら今だかんな。逃げてもアイポだけは標的にしないでおいてやっからよぉ。
コレが最終通告だ。ぜってぇに選択間違えんなよ。
「そうだったね。わたしもとことん付き合ってあげる。たとえ邪魔でもついて行くんだからね」
引きつった笑顔で近寄ってくんじゃねぇよバカ。昔も思ったんだが、何がアイポをそうさせるんだか。
「あっそ、好きにしろっての。さて侵入者だけど、魔物任せにするのもいいんだが、コイツの使い心地を試してみっかな」
気を取り直す為、アイポにもらったフレイルを握るぜ。
「一生懸命作ったんだから、使いこなさないと許さないよ」
「無茶言ってくれるぜ。まぁいい、行くぞ」
「きゃ、デッドてば大胆なんだからー」
先を急ぐ為に横抱きにして走り出したんだが、アイポがキャーキャー言い出しやがった。
けっこう長く複雑に鉱山を造り変えたんだがな、道順わかってて何にも襲われないなら案外すぐに辿り着くぜ。
居たな。ヒゲモジャの筋肉ダルマが三人。おーおー、堅そうな鎧も着込んじゃってぇ、重くねぇんかねぇ。
警戒しながらじっくり進んでくんな。少しはダンジョンの進み方がわかってんじゃぁねぇか。
洞窟の影にアイポを降ろしてから黙って隠れてるようジェスチャーし、悠々と歩いて近付く。
「何者だ。メチャクチャになった鉱山に一人で」
「鎧も身につけずにこんな場所に居るとは、不気味なヤツだ」
「……」
僕を見てすぐに武器を構えやがった。斧が一に……剣が二、剣持ちの一人は盾付きか。
「キヒヒっ。喜べよ。ボスが直々に遊びに来てやったんだからよぉ」
フレイルを肩に掲げながら待ち構えると、戦闘の剣持ちが盾を構えながら突進してくる。
いぃ殺意じゃねぇか。コレでこそ殺りがいあるってもんだぜ。
盾を突き出しての体当たりをジャンプで躱しながら、兜を目がけてフレイルを叩きつける。
「がぁ!」
一撃を受けただけで倒れ込んで動かなくなりやがった。兜めりこんでっからな。鈍器はコレだから取り回しが楽だ。
一人やられて驚いてる場合じゃねぇぜテメェら。
柄をビュンビュンと振り回しながら、鎧の隙間を狙って残る二人も撲殺する。
「けっ、のろまなヤツらだ。もういいぞアイポ」
呼びかけるとアイポが震えながら出てきやがった。初めて戦い……ってか蹂躙を見せたかんな。今度こそビビったんだろ。動けるだけ上出来だろ。
「ホントに強いんだねデッド。わたしのフレイル、もう使いこなしてる。凄い」
もっと他に言いたい事とかありそぉだけんな。むりやり飲み込みやがったか。
「いや、強引に振り回しただけで使いこなせちゃいねぇ。もうちょっと素振りとかして手に馴染ませねぇと、本番じゃ役に立たねぇだろぉな」
武器に振り回されてる感じが否めなかったぜ。
今回はザコどもだったから一方的に出来ただけだ。めんどうだが暫く鍛錬すっかな。
アイポとの微妙な空気を感じながらも、フレイルを使いこなす事に意識を向けたぜ。




