338 かっこいいおもちゃ
地下鉄を走らせてヴェルクベルクの地に足を踏み入れる。
つっても村までまだ距離がある森の中だけんな。自然豊かで空気がうまいことで。
「とりあえずは本拠地行くか。まだ目立ちたくねぇかんな」
村の北にある鉱山を僕の魔力で魔改造した、蠢きの洞窟が拠点だ。本来は採掘場として活発だった場所だが、だからこそ落とした時の打撃はデカいってもんだぜ。
素材を採掘しなけりゃ装備は作れんぇかんな。
村を迂回する為、森の中を歩いて移動するぜ。
「あー、デッド発見。今日は来ると思ってたんだー」
デケぇ声を上げながら、木々の間からドワーフの少女が姿を現しやがった。こっちは隠れて行動してんだから目立つ声を出さねぇでほしぃぜ。
「んだよアイポかよ。毎回毎回よぉ僕を見つけるなぁ」
僕が毒を吐いてるっつーのに、脳天気なニコニコ笑顔で近付いてきやがる。
ピンクのもじゃもじゃした髪にピンクの瞳とピンクづくし。淫乱ピンクってこぉいうのだっけか?
つり目なんだけどずんぐりしたドワーフ体型のせいで小動物のようなかわいさを感じなくもねぇな。厚手の服の上にオレンジのオーバーオール姿をしてるぜ。
「なんとなく今日はきてるって直感が働くんだよねー。デッドは初めて会った時からビビッときてたもん」
「初めて会ったときはビビってただけじゃなかったか」
「ビビってないもん! デッドのバカ」
ツンケンしながら顔をプイッとさせるアイポ。
初めて会ったのは四年ぐらい前か。そんときはジジイ達と一緒にヴェルクベルクの視察にきてたんだよな。
それから僕は度々ヴェルクベルクに来てんだけど、毎回アイポに見つかっから不思議だぜ。
確かアイポは初めて会ったとき六歳だったか。って事は今十歳ぐらいだな。
「にしてもアイポは小っせぇままだなぁ。むしろ縮んでんじゃなぁのか」
「デッドがデカくなりすぎなのー。ちょっと会わない間にどんどん伸びるんだもん。ずるいよー」
ズルいねぇ。まっ、僕は普通の人よりはガタイの成長が早ぇかんな。
ニタニタ笑ってたら、アイポが更にぶーたれやがった。
「ところで今日はどうして来たのよー。わたしが気になって会いに来てくれたとか?」
何がお気に召したのか、急に機嫌良くすり寄ってきやがった。
「違ぇよバーカ。勇者が僕の首を取りに来るようだからよぉ、歓迎の準備をしよぉと企んでるとこだ」
最初否定したところでムッとなるアイポだったが、続く言葉でパッと顔を明るくさせた。
「って事はデッド。遂に勇者をコテンパンにするんだねー。だったらお祝いにプレゼントしないと。ちょっと待ってて」
アイポは言うなりに、出てきた木々の間に戻っていく。ガサゴソと草根から長物を拾い上げてきた。アイポの身長より長ぇな。
「おっ、かっこいいおもちゃじゃねぇか」
「おもちゃじゃないもん! 武器だもん!」
文句を言いながらビュンビュン振り回すんじゃねぇよ。危ねぇじゃねぇか。
長物の先についている円柱形の鈍器を手で掴んで止めた。
「ちょっとデッド。平然と手で受け止めないでよー」
呆れながら文句を言われてもなぁ。
「おいおい、受け止めなきゃ直撃すんだろぉが」
「デッドなら簡単に避けれるでしょ。はい」
素直に長い柄の方を渡してくれたぜ。にしても安っぽいフレイルだな。
「わたしがデッドの為に一生懸命作ったんだからね」
「手作りか。どおりで」
続く言葉をかき消さんと、上目遣いでこれでもかと睨んで来やがる。なんなら頬も膨れてっぞ。
「……まっ、壊れるまでは使ってやんよ」
「壊さないでよ! 大事に扱ってってば!」
「武器なんだから手荒に扱わざるを得ねぇだろぉが。それとも壁に飾って大切に拝んだ方がいいか?」
「むー! デッドのバカー!」
大切に活用する方法を提案したら罵倒を浴びせられたぜ。コレだから年頃の女ってヤツはめんどうでしょうがねぇわ。




