337 シェイの懸念
裸足で畳を踏みながら、ほろ暗く広い部屋を歩く。か弱いろうそくの火が、心許なく辺りを照らしています。
シャトー・ネージュに自分の魔力で建てた常闇城の城内。闇の静けさを感じられる、落ち着いた空間作りに出来ていますね。
いずれは自分と勇者達が死闘を演じる戦場と化すでしょう。
「アキ、いますか」
呼びかけると自分の後方に、恭しく頭を垂らして座する少年がスッと現れる。
「ここに。お呼びでしょうか、シェイ様」
アキは自分が育て上げた、奴隷戦闘部隊の隊長です。戦闘センスや諜報活動は勿論、忠誠心にも揺るぎないものがあります。
自分としては奴隷達を、戦いの駒にするつもりはなかったのですけれども。
「勇者達がアクアを降し、デッドを標的にしました」
「なんと。ではアクア様は……」
アキから衝撃の声が漏れます。驚きで顔を上げましたね。敗者の行く末を想像したのでしょう。
「生存していますよ。勇者の温情に救われました。アクアは勇者について行き、観光をすると言って旅立ちましたよ」
「アクア様も計り知れぬお方ですね。まさか勇者と観光などと……」
「本題はデッドです。勇者を陥れる為に残虐な手段をとろうとしています。自分としては目を光らせておきたいところ、そこでアキ」
「はっ!」
「暫く自分は留守にする予定ですが、あなたたちに常闇城を任せられますか」
「お任せ下さい。我ら奴隷戦闘部隊、勇者のいない人間共に後れはとりません」
頼もしい返事です。本来ならば長期間、居城を空けるのは避けるべきなのでしょうけどね。
フフっと笑みがこぼれてしまう。
「ご機嫌ですね。シェイ様が笑われるなど」
「機嫌がいいつもりはないのですけどね。世話の焼ける兄上を監視し、姉上を見守るというめんどうをしなければならないのですから」
デッドがアクアに何もしない可能性はどれほどでしょうか。きっとよからぬ行動をとる事でしょう。
「デッドに悟られぬようつける必要があるので自分は急ぎます。常闇城を任せましたよ」
返事を背に聞きながら自分は影に身を潜めて移動します。デッドがヴェルクベルクへ帰る前に実家に戻らねばなりません。
「……シェイ様は本当に、ご兄弟がお好きなのですね」
その呟き、聞こえましたよアキ。どういう意味かは問い詰めない事にしますけどね。




