328 城の登り方
「それにしてもアクアリウムって高い城よね。今更ながらよく登ったわよアタシ達」
エリスがアクアリウムを見上げながら感慨深く呟いた。
「ひたすら階段を登らされたかんな。魔法使いのオレにはキチぃぜ。次があったらクミンが負ぶってってくれぇ」
「ふざけた事抜かすんじゃないよ。情けない男だねえ」
「アクアってば最上階でアタシ達を待ってたんでしょ。この城上り下りするのめんどうじゃない?」
「私は階段使ってなかったから、そこまで苦じゃなかったよ」
何気ない疑問に答えると、みんなから、えって振り向かれた。
「城の中心にでっかい水槽あったでしょ。あの中を一直線に泳いで登るだけだから。下りるときは海に飛び込めばいいし」
「なんかずるい。アクアも一度階段で上り下りしてみなさいよ。アタシ達の苦労、身をもって知るべきだわ」
「えー」
理不尽を要求されてしまった。来客用に用意した階段はお気に召さなかったみたい。
「ふと思ったんだけどこの城、アクアを殺していたらどうなったんだい」
「私の魔力で建ってるから当然、跡形もなく瓦解するけど、どうして?」
勇者だったらもう何度か体験してると思うんだけどな。魔力で作られた城が宿主を失うとどうなるかなんて。
答えを聞いたジャスの顔色が少し悪くなる。
「結果論だが、殺さなくて正解だったかぁ」
「水槽の中に閉じ込められてたからねえ。あの状態で瓦解したらワシらも助からなかっただろう」
そっか。決着は水槽内だったもんね。危機感を感じるのも頷けるよ。
「そこは大丈夫だよ。ちゃんと人が通れるくらいの穴が近くに出来たはずだもん。脱出するまでの時間は充分あるよう設計したつもりだし、全員で生きて帰れてたと思うな」
説明するとみんなから無言で、呆れたような視線を浴びせられた。私、なんかおかしい事言ったかな?
「色々突っ込みどころがあるけどまぁいいわ。仮にこの港まで出れてもダメだったのよ。船に置いていかれてたから」
「え? 置いてかれちゃたの? どうして?」
首を傾げてしまう。勇者って思った以上に人望ないのかな?
「船を借りて船長雇ってまではよかったと思うんだけどな。護衛に日雇いの冒険者共を引き連れてきたんだが、オレらの事を置いてとっとと逃げちまった」
「ちなみにその冒険者ってのが、さっきアクアが海岸で始末したヤツらだよ。相手が相手だったから、ワシらも流す事にしたんだよ」
ワイズがジャスをジト目で眺めながら言い、クミンが補足する。
さっきの冒険者達って、そういう繋がりがあったんだ。って事は仲間を失ったのはアクアリウムに来る途中だったのかもね。だったら運がいいのかな、仲間と同じ海で死ねるなら万々歳だよね。
「人間って、複雑で単純だね。ジュンはそういう大人にならないようにね」
「いきなりオレに振るんじゃねぇよ。けどとりあえず、冒険者にはならねぇようにするぜ」
ジュンはなんとも微妙な表情をしてたけど、素直でいい子なのが私は嬉しい。




