325 流れ
放心して腰を抜かしているジュンに、冒険者の成れの果てがみっつ。悠然と佇む私。
そんな状況を、驚愕の眼差しで勇者達が眺めていた。
言い逃れを出来る状況じゃないね。死んでなお冒険者達が邪魔になるとは思わなかったな。どうしよ。
やがてエリスがキッと表情を鋭く変えると、私の元に大股でドスドスと駆け寄ってきた。
「何やってんのよアクア。銛突き刺さってるじゃないの。血だらけだし、早く手当てしないと!」
「あれ? 心配されてる? 冒険者殺した事はいいの?」
死体を指差して問いかける。勇者的には私が人を殺すのってかなり問題だよね。
「アタシはとりあえず捨て置く事にしたわ。それよりアクアは自分の傷に興味を持たなすぎ。もっと自分を大事にしなさいよ。痛いでしょ」
「見た目ほど痛くないから。人間離れしてるだけあって、致命傷にならなかったんだよね」
「つべこべ言わずに回復するっ! ジャスお願い」
エリスが反論許さずって感じにビシっと言いつけ、ジャスに顔を向ける。
ジャスは不機嫌そうに奥歯を噛み締めながら、近付いてくる。
「エリス。ヒールをかけるから銛を引き抜いてくれ」
「わかった。アクア。ちょっと痛いけど我慢してね、せーのでいくよ。せーのっ!」
さすがに銛を引き抜かれた瞬間は痛かったし血も吹き出たけど、すぐにヒールがかかったおかげで持続はしなかった。
まさか本当に何事もなく助けられちゃうなんて。
「あっ……ありがとう」
お礼を言うとジャスは無言でそっぽを向き、エリスが凄い剣幕で詰め寄ってきた。
「こんなことでお礼を言うぐらいだったら最初から一人で動き回らないでよねもぉ! ちょっと目を離しただけで面倒事に巻き込まれるんだから」
あけすけなく文句を言ってくるなぁ。やっぱりエリスって大物かも。
「言い合いしてるとこ悪ぃんだがよぉ。こいつら海に流せねぇか?」
「ワシらとしても証拠を残したくないからねえ。魔物を使ってもいいから処分してくれないかい」
遠くからワイズとクミンが勇者らしからぬ提案を持ちかけてきた。今回の事は徹底して見なかった事にするつもりみたいだね。私も助かるけども。
促されるまま死体を海に流し、魔物達に遠くへと運ばせた。
そんな極悪非道な現場をジュンが眺めながら呟いた。
「なんだよコレ。もうわけわかんねぇ」
うん。私もわけわかんない。けどわからないなりに流れに乗る事にした。折角証拠隠滅したんだから、後片付けもしなくっちゃだね。
「ねえジュン。小舟とか調達できないかな」
「小舟なんてどうすんだよ」
「みんなでアクアリウムまで行こうと思ってね。あそこなら誰も来ないと思うし」
みんなでお話しをしなくちゃいけないもんね。
呆然と見上げていたジュンは、首を縦に振ってから動いてくれた。




