323 矛先
ざっ、ざっと砂を踏む音に振り返ると、銛を持った少年がいた。
紺色の短い髪に同じ色の瞳。程よく焼けた肌は健康的で、少年ながらなかなか引き締まった体付きをしている。
ヴァッサー・ベスの侵略中に出逢った男の子。
「おはようジュン。今日は早いね」
いつも元気で、かなりヤンチャで、私の事をお姉さんって慕ってくれてた。おかしいよね。
ただ今日はいつもの元気さはなくて、かなり暗い表情をしてる。重々しい。
まぁ当然か。私の正体、晒しちゃってるからね。
「銛なんて持ってどうしたの? 素潜りかな? 今なら近くに魔物もいないし、もし溺れても私が助けてあげるよ」
ジュンってば、一言も喋らない。
どういう風に行動してくる予感しながらも、視線を海に戻してリールを引く。
竿を全力でしならせ、餌に命の動きを吹き込み、今日全力の釣りをする。
「っ! うわあぁぁぁぁあっ!」
甲高い雄叫びに走る足音、振り返った瞬間、ジュンの銛が私の身体を貫いた。
……フィッシュ。
なんて思ってる場合じゃないね。貫かれた身体が熱い。重要な内臓も貫かれてる。熱いものが喉から口まで逆流してきた。
傷口と口元から流れ落ちる赤が、ジュンの身体を汚く染める。
あぁ、なんてことだろう。コレ、マズいや。
銛を力強く握っていた両手が震えてる。
睨み付けていた紺色の瞳が、怯えたように揺れた。手を離し、後退っていく。
ジュンってば動揺しすぎ。見ていて気の毒になちゃうよ。
「……どうして」
ジュンが疑問を口にし、更に続けていく。
「どうして漁師を襲ったんだよ! どうして魔物なんか従えてんだよ! どうしてたくさんの人間を襲ったんだよ!」
泣きながら一つずつ語尾を強くして訴えかけてくる。
やっぱりジュンは強い男の子だ。私の強さを知りながら、真っ正面からぶつかってくる。そういう所、好感持てちゃうな。
「どうして……勇者に殺されてないんだよ。助かってんだよ……」
膝をついて蹲まっちゃった。
ジュンには結構酷い仕打ちをしたつもりだったんだけどな。好きを嫌いになりきれなかったみたいだね。
「助けられた理由なんてわかんない。私が知りたいぐらいだよ」
この状況だと喋るのも億劫だね。けど答えられるところぐらいは答えないと。
「ふざけんなよ。なんで微笑んでんだよ。オレはそんなにバカなのかよ」
んー、バカにしてるわけじゃないんだけどな。どうしよっか。あれ?
近付いてくるみっつの気配を感じてゲンナリする。
ジュンとの会話にのめり込んでたところだったのに、タイミングの悪い部外者だなぁ。




