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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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31 根を伸ばす

 チェルの部屋に戻ると、アクアとグラスが部屋の両端に分かれていた。片や壁を背中に震えていて、片やドッシリと壁にもたれて睨みつけている。

 そして中央の丸テーブルでは、ドアに背中を向けて座っているチェルがいた。心なしか肩に疲れがのっている気がする。

「あらコーイチ、早いわね。もう子供たちの見回りは終わったのかし……」

 ドアを開ける音に気づいて振り向くと、チェルは言葉を途中で途切らせた。赤い瞳が驚きで丸くなる。

「こんにちわぁ、チェル。あたいも今日からここに住むねぇ。よろしくぅ」

 フォーレは俺の肩にあごを乗せながら、のんびりと喋った。ちなみに俺はフォーレをおぶっている。最初は歩かせていたけど、子供の足では時間がかかりすぎた。

 冗談でチョークスリーパーを極められたときには本気で落ちるかと思ったけどな。

 やわらかい顔が肩にあたり、緑色のボサついた髪が頬をくすぐる。ほのかに植物特有の青い匂いが鼻に届いた。

「えっ?」

 フォーレの挨拶を聞き、部屋の両端から驚きの声がハモる。どうもぉ、とぼんやりした口調でフォーレは手を振った。グラスに至ってはギリリと口元に皺を寄せて睨みつけてくる。

 チェルが渋い顔をしながら、手で顔を抑えてため息をつく。

「コーイチ、無計画に裸の幼女をポンポンと連れ込まないでくれる。ここは私の部屋よ」

「人聞きわりぃこと言うなよ。まるで常習犯みたいじゃないかっ!」

「ないかぁ」

 俺は必死に身の潔白を叫ぶ。フォーレが気の抜けた声で、山びこのように最後の言葉を繰り返した。

「現在コーイチが連れ込んだ裸幼女の数は二人中、二人よ。言い換えるなら百パーセント」

 チェルの言葉が矢となり俺の胸を貫く。膝をつき、ゆっくりと四つん這いになった。

「うぐっ、痛いところをついてくれる。俺はか弱い人間なんだぞぉ」

「よしよしぃ」

 感情など微塵もない平坦な声で、フォーレが俺の頭を撫でてくれた。

「まったく、頼りない。そんなので父親をやっていけるの」

 顔を上げると、冷え切った視線で見下している。

「俺を舐めるなよ。たとえフォーレにチョークスリーパーで落とされかかったとしても、父親をやり遂げてみせるぜ」

 おぉ、とフォーレが声をあげて手をパチパチとさせた。

 ニヤリと自信に満ちた笑みを浮かべると、チェルは呆れたように瞼を半分落とす。

「妙にリアルなたとえ話ね。余計に心配になるわ」

「そんなことより父さん。なんでフォーレも人間の身体をしているんですか!」

 グラスが吠えると、ドスドスと足音を立てて近づいてきた。目を刃物のように尖らせて手を強く握っている。どうして俺だけ期待をしてくれないんだって気持ちが透けて見える。

「それに至っては俺もビックリした。フォーレは別に人間化してもらわなくてもよかったんだけど、勝手に化けたんだよ」

「えっへん」

 俺の背中で鼻息をフンと鳴らして自慢した。ちょ、(あお)らないでフォーレ。

 一方でアクアは壁に張りつき、怯えたように青い瞳をユルユルさせていた。少し触っただけで崩壊しそうなのが怖い。

「おとー、そのままでいてぇ。よっとぉ」

 フォーレは四つん這いの俺から飛び降りると、グラスの前に立った。

 トロンとした緑の瞳を、食い殺さんとする茶色のネコ目が迎え撃つ。

 大丈夫かフォーレ。このままだとアクアの二の舞になりそうだぞ。

 フォーレは無表情なまま、スッと手を差しだした。

「あたいはフォーレ。マンドラゴアのおかーとぉ、おとーの子供だよぉ。第四子で三女ぉ。グラスの妹で下の存在だよぉ。よろしくねぇ」

「第四子で下……そっか」

 鋭角に尖っていた目つきが急に和らいだ。口元の皺が消え去り、子供のようなプニプニとやわらかいものに変わる。

「俺はグラス。第二子で長男だ。いずれはチェル嬢の側近になる男だ。フォーレは影から支えてほしい。よろしくな」

 グラスは満足したのか、フォーレの手を受け入れて握手に応じた。手が固く結ばれる。

 フォーレのやつ、呆気なくグラスを懐柔(かいじゅう)しやがった。てかグラスは持ち上げると気をよくするタイプだったのか。

「うん。グラスは頼りになりそぉだねぇ。よろしくぅ」

 グラスが気分よく笑いだすと、フォーレの口も弧を描いた。してやったとでもいうような、策略に満ちた笑みだ。

「フォーレは意外とやるようね。コーイチと違って」

 流し目をしながらチクチクと傷を(えぐ)ってくるチェル。俺は胸を押さえながら立ち上がった。

「そうだな。フォーレは底知れない何かを持ってるぜ。それと、服の用意を頼むわ」

「あら? コーイチ的にはあのままの方がよいのではなくて」

 クスクスと嘲笑しながら、素っ裸のフォーレを目で示す。チェルは俺を変態にしたいんだろうか。

「冗談はよせよ。あのままだと風邪ひいちまうだろうが」

「はいはい。そういうことにしておいてあげるわ。ふふっ」

 チクショー。バカにしやがって。でも、だいぶ余裕を取り戻しているな。(しゃく)に障るけど、いい状況だ。あとはアクアをどうにかして、グラスと仲直りさせるだけだな。

 ふとアクアを見てみると、目じりに涙を浮かべて、かわいそうなほど震えていた。

 ちょっと待って。いったい何が起こったの?


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