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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第4章 海原のアクア
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315 断罪の時

「貫けぇぇぇえ!」

 叫びを切っ先に込めて、ブレイブ・ブレイドへ正面衝突する。

 少しだけ、押し返したように思えた。軌道が逸れたようにも感じた。けどすぐにトライデントが切っ先から砕け散って、真正面から勇者渾身の必殺剣を受けてしまう。

「……ぁ」

 突き出した右手の肩から、袈裟斬りに裂かれて足場へと(うつぶ)せに落下した。

 衝撃がダイレクトに傷口へと響く。

 熱い……熱いっ。

 転がり回りって悶え苦しみたい気分なのに、痛みが酷すぎて動くことも出来ない。

 傷口から流れ落ちる赤が、網状の足場から氷水の水面へと落ちて滲んでいく。

 全力で抗いすぎた。もうちょっと手を抜いてたら、私はきっと真っ二つになってた。中途半端に切り裂かれる事なんてなかった。痛みは、こんなに長く続かなかった。

 命を動かす赤が氷水に落ちて薄まっていくのを見ながら、近づく足音を耳で拾う。

 剣を手に提げ、冷たい表情でゆっくりと近付いてくる勇者ジャス。奥ではワイズが炎を漂わせて、氷漬けの身体を溶かしている。

 遠巻きに立つクミンの傷もだいぶ治ってるね。エリスは座って行く末を見守ってる感じかな。

 カツカツと近付く足音がカウントダウンのように聞こえる。

 終わる。私の戦いが。私の人生が。

 シェイ。私、かっこよく戦えたかな? シェイが見て立派だったって思えるほど、戦い抜けたかな?

 チェル様。ありがとうございました。チェル様のおかげで、お父さん凄く生き生きしてた。いつも毅然としてて、強くて、可憐で。そして優しくて。お母さんも心配してたんだよ。優しすぎて魔王には向かないって。

 お母さん。私も精一杯戦ったよ。こんな結末だったけど、向こうの海で褒めてくれると嬉しいな。これからはたくさん泳ぎ回って、お話しよう。

 フォーレ。私、心配かけてばっかだったね。いつも傍にいてくれてありがと。フォーレが一緒だったから、凄く楽しかったよ。

 止まる足音。見上げると間近に、殺意の固まりが立っている。剣を逆手に両手で持ち、切っ先を私に向ける。

 お父さん。ちょっぴり頼りなくって、とても優しくて……やっぱり凄く頼りなくて。けど私を凄く大切にしてくれて、どんなことでも褒めてくれて、落ち込んだときも慰めてくれて。

 うんん、ホントは理屈なんてなんもない。ただ傍にいてくれるだけで安心できる。当たり前に居場所を作ってくれる。だから大好きだったよ。

 もっともっと傍にいたい。私の作った料理を食べて、おいしいって言ってもらいたい。一緒に魚釣りをして、上手に釣れるなって驚いてほしい。時たまお父さんも魚を釣り上げて、驚きながら全力で喜んであげたい。

 気づいたら涙が出てきた。どうしよう、やりたいことがあふれ出てきて止まらないよ。私、やっぱり欲張りだ。もっとたくさんお父さんと遊びたい。一緒にいたい。終わりたくなんかない。

 家族みんなで戦うって決めたときから覚悟はしてたのに、土壇場になるとどうしてこんなに生きたくなっちゃうんだろ。

 やっぱり私、意志が弱いや。けどやることやっちゃってるんだもん。今更助けてなんて言えないよ。けど、けど……

「ごめんねお父さん。やっぱり、怖いよ」

 断罪の剣が下りてくるのを最後に私の意識は途切れた。

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