315 断罪の時
「貫けぇぇぇえ!」
叫びを切っ先に込めて、ブレイブ・ブレイドへ正面衝突する。
少しだけ、押し返したように思えた。軌道が逸れたようにも感じた。けどすぐにトライデントが切っ先から砕け散って、真正面から勇者渾身の必殺剣を受けてしまう。
「……ぁ」
突き出した右手の肩から、袈裟斬りに裂かれて足場へと俯せに落下した。
衝撃がダイレクトに傷口へと響く。
熱い……熱いっ。
転がり回りって悶え苦しみたい気分なのに、痛みが酷すぎて動くことも出来ない。
傷口から流れ落ちる赤が、網状の足場から氷水の水面へと落ちて滲んでいく。
全力で抗いすぎた。もうちょっと手を抜いてたら、私はきっと真っ二つになってた。中途半端に切り裂かれる事なんてなかった。痛みは、こんなに長く続かなかった。
命を動かす赤が氷水に落ちて薄まっていくのを見ながら、近づく足音を耳で拾う。
剣を手に提げ、冷たい表情でゆっくりと近付いてくる勇者ジャス。奥ではワイズが炎を漂わせて、氷漬けの身体を溶かしている。
遠巻きに立つクミンの傷もだいぶ治ってるね。エリスは座って行く末を見守ってる感じかな。
カツカツと近付く足音がカウントダウンのように聞こえる。
終わる。私の戦いが。私の人生が。
シェイ。私、かっこよく戦えたかな? シェイが見て立派だったって思えるほど、戦い抜けたかな?
チェル様。ありがとうございました。チェル様のおかげで、お父さん凄く生き生きしてた。いつも毅然としてて、強くて、可憐で。そして優しくて。お母さんも心配してたんだよ。優しすぎて魔王には向かないって。
お母さん。私も精一杯戦ったよ。こんな結末だったけど、向こうの海で褒めてくれると嬉しいな。これからはたくさん泳ぎ回って、お話しよう。
フォーレ。私、心配かけてばっかだったね。いつも傍にいてくれてありがと。フォーレが一緒だったから、凄く楽しかったよ。
止まる足音。見上げると間近に、殺意の固まりが立っている。剣を逆手に両手で持ち、切っ先を私に向ける。
お父さん。ちょっぴり頼りなくって、とても優しくて……やっぱり凄く頼りなくて。けど私を凄く大切にしてくれて、どんなことでも褒めてくれて、落ち込んだときも慰めてくれて。
うんん、ホントは理屈なんてなんもない。ただ傍にいてくれるだけで安心できる。当たり前に居場所を作ってくれる。だから大好きだったよ。
もっともっと傍にいたい。私の作った料理を食べて、おいしいって言ってもらいたい。一緒に魚釣りをして、上手に釣れるなって驚いてほしい。時たまお父さんも魚を釣り上げて、驚きながら全力で喜んであげたい。
気づいたら涙が出てきた。どうしよう、やりたいことがあふれ出てきて止まらないよ。私、やっぱり欲張りだ。もっとたくさんお父さんと遊びたい。一緒にいたい。終わりたくなんかない。
家族みんなで戦うって決めたときから覚悟はしてたのに、土壇場になるとどうしてこんなに生きたくなっちゃうんだろ。
やっぱり私、意志が弱いや。けどやることやっちゃってるんだもん。今更助けてなんて言えないよ。けど、けど……
「ごめんねお父さん。やっぱり、怖いよ」
断罪の剣が下りてくるのを最後に私の意識は途切れた。




